◆ 恐慌とブロック経済化で、悲劇の持たざる国

 占領下では「持たざる国」の言ひ分は全て、厳しい検閲を免れなかった。

例へば次の文章の後半部は、「戦争宣伝の擁護」といふ理由で削除された事例である。

 

 恐慌克服策として試みられた国際的協調手段の失敗は、反転して経済的国家主義の世界的伝播と、これに基づくブロック経済形成運動を促進した。
 イギリスによる大英帝国囲ブロックの結成を先鞭として世界は幾つかのブロック的野立の様相を呈するに至り、とりわけナチス・ドイツの台頭、日本の進出を根幹として、所謂「枢軸囲」と「反枢軸国」もしくは「持てる囲」と「持たざる囲」の対立・抗争を惹起したことは尚記憶に鮮明である。

かくて国際分業の系脈は分断され、世界経済の梗塞化が招来せられた。
 現状打破を企図する「持たざる国」側の意慾は西に東に、侵略的版図拡張活動へと進展し、こゝに世界の政治経済の不断の軋轢と混乱を惹起し、その集積がやがて第二次世界大戦の勃発へと導いたことは多言を要しない


 次も同様の事例であるが、かうした排他的ブロック経済が、イタリア、ドイツ、日本の「ファッショ化」の原因を成したとする記述が、「右翼的宣伝」といふ理由の下に不許可になっている。

 

 だが、大観して恐慌後の世界は各国思ひ思ひの道を進んだ。

かくて第一次大戦彼の世界経済の姿は、戦前のそれとは全く一変し、そこには一つの世界通貨なく、一つの物債体系なく、ソ連は勿論、英国も、米国も、その他もそれぐブロックを作て割拠し、計画経済又は多かれ少なかれ統制主義を採用しないものはなく、従てそれらの間の対外貿易は割当ないし求償主義が一般的になた。

而して人口多く資源と市場なき伊太利と、領土と資源を奪はれた独逸にはファシズムが起り、同様の事情にある日本もファッショ化して、満州及び支那に進出した。

かくて世界経済は全く四分五裂の状態に陥り、ツイに再び武力に訴うる外なからしめた。

 もう一つだけ、同様の例を挙げる。

これは「軍国主義及び侵略の擁護」となっている。

 

 世界各国がその天然資源なり、生産品なりを長短相補ひ、有無相通ずべきは、天の道であり、自然の法則であり、世界経済の大道である。

独逸の開戦理由の一つに「世界資源分配の再吟味」が有力なる要素であた事は世人の記憶にあらう。