■ 抹殺された不都合な真実
  ゾルゲ事件などの国際情報戦を研究する加藤哲郎一橋大名誉教授の話
 「英米のアーカイブ資料の信頼性は高く、ヤルタ密約情報が小野寺からクレーマーに渡っていたことがうかがえる。
実際の電報は見つかっていないものの、これで(ヤルタ密約の内容を入手して打電したという)小野寺証言の信憑性はきわめて高くなった。
小野寺電が届いていたとなると、受け取った参謀本部、とりわけソ連情報分析を行っていた関係者がどう対応したかが問題となる。
ヤルタ会談が行われたころから政府、軍部をあげて密かに始まったソ連を仲介とする和平工作の大きな動きのなかで、不都合な真実だった小野寺のスクープ電報が抹殺され、握りつぶされたと考えられる」


■ 終戦の遅れ 統帥部に責任
  インテリジェンス分野に詳しい手嶋龍一慶応大学大学院教授の話
 「ヤルタ密約を亡命ポーランド政府から極秘に入手し、大本営に打電したとされる小野寺信駐在武官の証言が裏付けられることになった。
大本営が小野寺電を受け取った記録が見当たらず、関係者の間で大きな謎とされてきたが、現代史の空白がまたひとつ埋められることになった。
ソ連を仲介者に終戦工作を進めていた陸軍が意図的に小野寺電を握りつぶした可能性が高くなった。
もし1945年2月半ばにソ連の対日参戦の密約が明らかになっていれば、英米直接和平派の発言力が増し、終戦が早まったかもしれない。
終戦が遅れ、原爆投下、ソ連参戦と北方領土占拠を招いてしまった統帥部の責任が改めて問われることになろう」

   
ヤルタ密約情報が独政府に伝わっていたことを示す秘密文書の一部。
「TOP SECRET」として、独外務省から全在外公館にソ連の対日参戦情報が打電された(英国立公文書館所蔵)