(3)タントラとインド哲学 

 

 タントラとは、宇宙の真理を人体の神秘から知ろうとする、インドに於ける密教思想の事である。

一般大衆に開かれた教えは顕教であり、一部の者を対象とした秘密の教え密教である。

タントラの実践者をタントリーカと言う。 

 

 聖仙が保持してきたタントラは、チベット密教ヒンズー教のタントラよりも古く、インダス文明からの口頭伝承による本来のタントラ=原始タントラである。

このタントラは人体に喩えられるため、誤って解釈すると、ダルマを踏み外して無意味な肉体修行を行ったり、カーマに堕ちる。

ダルマとはタントラの奥義を求めて「神」に近づく事であり、カーマとは男女の性愛である。 

 

 アダム・カドモンに右と左があるように、タントラにも右道(うどう)と左道(さどう)がある。

右道タントラダクシナカラと言い、徹底的に禁欲を説く。

深い瞑想を主体に梵我一如を目指すハタ・ヨーガは、ダクシナカラが基である。

しかし、本来の解釈が成されていないため、肉体改造を基本とした神秘思想となっている。

梵我一如、神人合一を達成する事により不死の体が得られ、思い通りに肉体を消したり現れたりする事ができ、透視や予知も可能になると信じる。

つまり、仙人である。

ハタ・ヨーガは強制的な肉体改造により、これを達成しようとする(悟りを開こうとする)が、非常に危険な行為である。 

このような肉体改造は神経を麻痺させ、幻覚を生む。

やっている本人は、現実との区別がつかないため、恐怖のカーリーに会った後、シヴァに会う事ができた、などという幻覚を信じてしまう。

それは単に、本人の記憶がそのような光景を見させているに過ぎない。

(臨死体験者の経験談で、仏教徒は三途の川を見て、キリスト教徒は天使の集まりを見るのと同じ事である。)

ある者は、手っ取り早く幻覚を生じさせる為に、幻覚剤を使用する。

神の酒ソーマは、毒キノコであるベニテングダケから抽出したものである。

幻覚剤を使ってお告げをしたりする口寄せやシャーマンなどは、如何に愚かな連中か解るだろう。

 

 左道タントラヴァーマカラと言い、性愛を徹底的に追及する快楽主義である。

カーマは性愛指南書「カーマ・スートラ」として有名であり、多くの者たちが左道に堕ちた。

カーマ最大のものがカジュラホ寺院の一面に彫られているエロティックな男女交歓像であり、神殿売春が主体であった寺院である。

日本に伝わったヴァーマカラとして有名なのが、真言立川流である。

(興味のある人は、各自で調べるように。)

インダスのカッバーラでは、何故、このような左道に堕ちるのか。

それは、主神イナンナの物語を見れば、一目瞭然だろう。

イナンナが性愛に溺れたからである。

だから、この資料では、冒頭にイナンナの物語を詳細に紹介したのである。 

 

 聖仙は、ハタ・ヨーガを容認こそすれ、自らがヨーガを行う事は無い。

タントラの原理は、下から地・水・火・風・空の五大元素から積み上げられた世界観に基づき、人間の11器官がそれに対応する。

11器官とは、5行為器官としての発声器官、手、足、排泄器官、生殖器と、

5知覚器官としての耳、皮膚、目、 舌、鼻プラス隠された思考器官マナスである。

つまり、五大元素とはアダム・カドモンに於ける五体満足を暗示し、隠されたダアトを含めた11個のセフィロト象徴しているのである。

日本に於いても、蘇我入鹿の首塚などがタントラ原理を示しており、インダス・カッバーラの影響を堂々と示している。

この写真から、墓石の原型タントラ原理にある事が良く解る。 

 

 タントラは哲学として大きく6つに分類され、インド六派哲学となった。

サーンキヤ、ヨーガ、ミーマーンサー、ヴェーダーンタ、 ヴァイシェーシカ、ニヤーヤ哲学である。 

 

・サーンキヤ

 この世を精神と物質の二元論で捉える。

この2つの相克により人間は苦悩する。

それ故、解脱の為には、精神と物質が全く別のものである事を自覚する必要があると説く。 

 

・ヨーガ

 サーンキヤ哲学の中心に神を据えた。

自我の欲望を滅し、宇宙と一体となる実践的システムを作り上げた。 

 

・ミーマーンサー:祭祀儀礼の解釈。 

 

・ヴェーダーンタ:ヴェーダを重視し、ウパニシャッド哲学の解釈を推進。 

 

・ヴァイシェーシカ:自然哲学。 

 

・ニヤーヤ:論理学。 

 

 原始タントラの直系とも言えるのが、サーンキヤ哲学とヨーガ哲学である。 

サーンキヤ哲学に於ける精神と物質は世界を生み出す原理であるが故に、

精神原理(プルシャ)、物質原理(プラクリティ)と言う。

プルシャは絶対神のことではなく、霊我とも言われるように、あくまでも個人的な自我の上にある存在の事である。

陰陽で表すならば、プルシャが陽、プラクリティが陰であり、プルシャは上向きの三角形、プラクリティは下向きの三角形で象徴される。 

 なお、チャクラもタントラに関係するが、「ヨーガ」の項で検討する。