フェラーリ


彼女と一緒にいる時に道でフェラーリを見かけたら、その夜はメイクラブをすることにしよう。ねえ、しませんか?

   *   *   *

僕は時折、資料探しのために渋谷区立中央図書館にゆく。
自転車に乗って、表参道を走っている時に幸せを感じる。
なぜ幸せなんだろう?
ヒリヒリした自由ではなくて、とても平凡な安定した自由の感じがする。

で、中央図書館は原宿の竹下通りの中ほどからちょっと横道に入ったところにあるのだけれど、今日、そこいらへんで飯喰って、外に出て、竹下通りの入り口あたりのガードレールに腰かけてボンヤリしていたら、なにげなく、ふと、
「あ......、オレの青春は終わったな」
と思った。

これまで僕は一度として「青春が終わったな」などと思ったことがない。そんな感情が湧いたことがない。
でも、今日、ほんとに、なんのきっかけもなく唐突に、そう実感したのだ。
青春なんてフェードイン・フェードアウトするもので、「区切り」などないものだと思ってた。
でも「見えない境界線」のようなものがどこかちょこっと手前のあたりにあって、その線から完全に全身が「こちら側にいる」ことで、ふと気づく。

でも僕の場合の青春の終わりは、「悪くないもの」だった。
哀しくも、切なくも、喪失感も、ない。
それは脱皮した蝶のような気持ち。
新たな生命観。第二章の幕開け。

で、ふいに「青春の時期」というものを、丹念に思い出して描いてみたい衝動が湧いてきた。
「その最中」には、あまりにもリアルすぎて書けないものがある、という作家の話をどこかで聞いたことがあるが、実際問題、そんなふうな気がしてきたのだ。

それにしてもオレの青春、あきれるほど長すぎたー!