零戦前夜を描く:柳田邦男『零式戦闘機』(文春文庫)
柳田邦男『零式戦闘機』(文春文庫)
基本的な零戦の描き方としては操縦、運営、設計という観点が可能だろうが、本書は主任設計者の堀越二郎を中心に据え、零戦が生まれるまでの過程を丹念に追っていく。
零戦が世界レベルであるとはよく聞く話だが、それが唐突に出現したものではなく、そこにいたるまでの設計者たちの地道な努力が結実したものであることは案外看過されがちである。
ありがたいことに本書では、いきなり零戦というわけではなく、それ以前の艦上戦闘機である七試(昭和七年度海軍飛行機試作計画)艦戦、九試単戦に多くの筆を割き、零戦、ひいては科学技術の突然変異観を訂正してくれるのである。
一読すればわかるのだが、七試艦戦におけるゴツゴツした鋲の問題を沈頭鋲というかたちでクリアし一躍世界水準に達した全金属単葉の九試単戦こそが、零戦を可能にしたわけである。こののちの九六式における経験を、そのまま極限まで徹底したのが零といえるからだ。
したがって約250頁にいたるまで零戦=十二試艦戦が登場しないのは極めて妥当なのである。というより、本書の最大の価値は零戦を半ば過ぎまで描かなかったことにあるといってもよいくらいだ。
正確には零戦前夜とでもいうべき本書だが、零戦への流れをおさえるためにもまず読んでおく必要があるだろう。
★★★★☆