一万本のタバコ
徹夜で三本の映画を見おわり、無為な時間を過ごす若者が命を賭けた遊びで生の濃度を深めようとする一本目、監督自身が扮するガンマンが生死のやりとりに倦み、唐突に菊池寛の短篇小説のごとく山に穴を穿つ二本目、ただただ死霊と称する謎の女性たちが延々と踊り続ける三本目。特に最後がよくなかった。なぜかたった一晩の徹夜ごときで息も絶え絶え、気が滅入っている。幸いなる哉、雲ひとつなくもない晴天、散歩に行けば曇った気も変わるかと、無印良品で買ったビーチサンダルをはき、労働は何とか への道と書かれた門の内側に収容されたひとびとよりは遥かにましな足取りで、扉を開け外へと向かう。踏んだときはそれほど大きさは感じなかった。一歩踏み出し二歩歩きだし、後ろを振り返り視線を落とすとそれはやたらに大きく、そしてマルボロ一万本と書いてある。タバコ500箱が収まっていたであろう段ボール。なぜ歩道の真ん中に落ちているのかは定かではないが、次第に突き抜ける陽射し、融けてゆくアスファルト、排気ガスは体を覆い、タバコ一万本あれば一年はもつかもしれないと、残り二本になったタバコを取出し、そういえば財布を忘れたと夏を歩く。