阿川 弘之『山本五十六』(新潮文庫) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

阿川 弘之『山本五十六』(新潮文庫)



阿川 弘之
山本五十六 (上巻)』(新潮文庫)


阿川 弘之
山本五十六 (下巻)』(新潮文庫)

旧版は、五十六の女性関係などを赤裸々に綴ったがゆえに訴訟騒ぎにまで発展した由だが、改訂された本書においても、五十六をめぐる人間模様がかなり具体的に記してある。というよりも、この人間模様を描くことに終始した一編といえるだろう。

もちろん伝記というものは中心となる人物の人間関係を描くのが当然なんだが、本書の場合、近代史における五十六の位置づけというよりも、彼がいかなる人物であったかを描くことに力点が置かれているといってよい。それは姿勢として問題はないのだろうが、五十六の決定的な伝記として評価されているだけに、少々失望した。

確かに、五十六が巷でいわれるほどの戦上手でも戦艦中心主義を完全に脱しているわけでもなく、南雲忠一などの艦隊派を憎み軽蔑していたことはわかった。それでも、海軍が次第に凋落してゆくさなかでの彼の思考や、ほかの幕僚とのやり取りをもっと詳細に知りたいと思ったのは、わたしだけではないと思う。

大体、真珠湾から五十六の死まで200ページ程度で済んでしまうのだから、やはり比重のかけ方に物足りなさが残るといわざるをえない。たとえ掲載誌が休刊しようとも、改稿をしているのだから、もう少しミッドウェイ以降でも何でも描いてほしかった。端的にいえば、彼の女性問題などどうでもいいのだ。

それでも彼の書簡などを駆使し、それなりに読ませることは間違いないとはいえる。ただし本書に対する絶賛の嵐に賛同することはできない。

★★★☆☆