竹本 健治『狂い壁 狂い窓』:狂気へと収斂する狂気 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

竹本 健治『狂い壁 狂い窓』:狂気へと収斂する狂気



竹本 健治
狂い壁 狂い窓』(角川文庫)

妻殺しの男の妄想、瓶詰めの胎児が散乱する部屋で自殺する産科医、隣人に何もかも、記憶すら盗まれていると考える男、そんな曖昧な光景が冒頭に描かれ、「樹影荘」なる築数十年のアパートに湧き出る虫に腐乱死体、床に流れ天井に浮かぶ血液の混乱と錯綜を読むうち、冒頭の描写が次第に形を整えてゆき、行き着く果てはさらなる狂気であったという悪夢のような一編。

読んでいる最中、本書がホラーなのか探小なのか、いったいどのジャンルに収まるのか検討もつかず、まったく安定した気持ちでページをめくることができない。その宙吊り感覚が、細部の気味悪さとあいまって、何ともいえない気分へと読者を追い込んでゆくのだが、本書がひとつの「愛」、ルイス・ブニュエルが『黄金時代』において描いたような「狂気」と「愛」についての物語であることは、一読後簡単に納得してもらえると思う。

おそらく「愛」とは、単純な「やさしさ」のみではなく、ときにはスラップスティックのように、ときには「狂気」のように現われるものなのである。

初版:1983年4月 講談社
★★★☆☆
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