尊富士が110年ぶりの新入幕、優賞した。
伊勢ヶ浜部屋には横綱、照ノ富士もいる。
そこに 白鳳が来るという。
なかなか相撲部屋も難しい。
記事を見てもらうほうがよくわかる。

新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念

 3月28日の相撲協会の理事会では、元幕内・北青鵬による暴行問題の起きた宮城野部屋の当面の閉鎖が決まり、宮城野親方(元横綱・白鵬)と弟子たちは同じ一門の伊勢ヶ濱部屋に転籍となることが決まった。伊勢ヶ濱部屋は春場所で110年ぶりの新入幕優勝を果たした怪物・尊富士の所属部屋でもあるが、今回の“合併”は、令和の大相撲を担う逸材にとっても思わぬ試練となるのかもしれない。


 春場所千秋楽では、怪我を押しての強行出場で賜杯を抱いた尊富士。その姿に、NHK中継の解説を務めた師匠の伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)も目を潤ませたが、場所後は伊勢ヶ濱部屋にさらなる“一大事”が起きた。宮城野部屋の親方・力士らが転籍してくることに決まったのだ。協会関係者が言う。

「元横綱・白鵬の宮城野親方や所属力士の移籍先は、同じ伊勢ヶ濱一門で理事となった浅香山親方(元大関・魁皇)の部屋が一時は有力視されたが、最後は伊勢ヶ濱部屋になった。浅香山親方の“名門校出身者、外国出身者は取らない”という地道な方針で、宮城野親方と正反対のため、固辞したといいます」

 暴力問題で協会の調査を妨害した疑いもあって宮城野親方への処分は重くなったが、「本人は他の部屋でも暴力問題が起きているのに“なぜ俺ばかり”という不満も鬱積している」(同前)という。

 懸念されるのは、宮城野親方らが伊勢ヶ濱部屋にやってくることで、尊富士の周りに複雑すぎる環境が生まれることだ。

「付け人」はどうなるのか

 相撲王国・青森出身の尊富士は中学卒業後、強豪相撲部のある鳥取城北高から日大を経て、伊勢ヶ濱部屋に入門した。

「この『鳥取城北→日大』のラインには、白鵬が新弟子供給源の太いパイプを持っている。鳥取城北の相撲部総監督の息子である石浦(現・間垣親方)を弟子にしたし、多数の出身者が宮城野部屋にいる。それなのに尊富士が伊勢ヶ濱部屋に入門したのは、師匠が同じ青森出身で、小・中学時代に『つがる旭富士ジュニアクラブ』に通うなど、早くから目をかけられていたから」(ベテラン記者)

 同クラブでは伊勢ヶ濱部屋の横綱・照ノ富士とも縁を持ち、その母校である鳥取城北に相撲留学した経緯があるのだ。

「白鵬は学生横綱経験者など幕下付け出しデビューの資格を持つ“即戦力”にばかり興味を示す。だから、怪我で学生時代のタイトルと無縁だった尊富士に触手を伸ばさなかったとされます」(同前)

 伊勢ヶ濱親方や照ノ富士が素質を見抜き、部屋に同郷の錦富士や宝富士がいる環境で尊富士は頭角を現わしたわけだが、そこに宮城野部屋が合流すると、様々な因縁が交錯する状況に様変わりする。前出・ベテラン記者が続ける。

「そもそも、白鵬と照ノ富士の関係は最悪。同じモンゴル出身ですが、決定的な亀裂が生じたのが2017年の日馬富士暴行事件。白鵬、日馬富士、鶴竜(現・音羽山親方)という当時のモンゴル3横綱と照ノ富士ら鳥取城北OBとの食事会で、日馬富士が幕内・貴ノ岩(当時)を殴って角界を揺るがす大事件になった。白鵬を頂点としたモンゴル出身横綱たちが後輩を締め上げる構図でした」

 事件当日、照ノ富士は膝の故障を抱えるなか正座で説教を受け、日馬富士に頬を張られた。

「その後、照ノ富士は膝を悪化させて序二段まで陥落。尊富士は憧れの先輩と、その仇敵との間で板挟みのような状況になってしまう」(同前)

 そもそも、伊勢ヶ濱部屋と宮城野部屋にはそれぞれ約20人の力士が所属しており、合併は容易ではない。古参力士が言う。


「稽古から日常生活まで部屋ごとに慣習は大きく違うし、今回は所属力士の番付のバランスが違うのも気懸かり。伊勢ヶ濱部屋には照ノ富士、錦富士、宝富士、翠富士、熱海富士と尊富士を含めて関取が6人もいるが、宮城野部屋は十両の伯桜鵬だけ。宮城野部屋の幕下以下の力士が、伊勢ヶ濱部屋の関取の付け人として下働きするかたちになる。超スピード出世の尊富士の付け人が、“他の部屋から来た兄弟子”になるかもしれず、人間関係は複雑極まりない」

伊勢ヶ濱部屋の厳格な掟

 しかも、宮城野親方がスカウトした力士のなかには、尊富士と日大の同期で、学生横綱を獲得して幕下付け出しデビューした輝鵬もいる。

「結果として前相撲からスタートした尊富士が新入幕優勝したのに対し、輝鵬は靱帯再建手術による休場で三段目に低迷中。立場は完全に逆転した。大学時代はスターだった輝鵬が無名だった尊富士の付け人になる可能性さえある。部屋の合併はストレスある環境を生んでトラブルにつながりやすいが、今回はとりわけややこしい」(前出・古参力士)

 そうしたなか、宮城野親方がどう振る舞うかだ。

「伊勢ヶ濱親方は気難しいことで知られ、所属力士・親方は師匠の許可がないと何もできない。部屋付き親方は新米を除けば、朝稽古にも顔を出さないのが一般的だが、伊勢ヶ濱部屋ではまわしを締めて参加する。一昨年、独立した安治川親方(元関脇・安美錦)もその方針に従っていた。白鵬は流石に免除されるのかもしれないが、何をするにも伊勢ヶ濱親方の許可が必要になるでしょう。白鵬はそれにどこまで従うのか」(前出・ベテラン記者)

 尊富士にとっての理想の所属部屋に、いくつもの“火種”が生まれたことだけはたしかだ。