【甲府ぃ】

「甲州から出て来た若者」とかけて

「人間に怖がられたお化け」と解く

「どちらも出て来て甲斐(怪)がありました」

お正月は、同郷の人が出て来る人情噺から。

両親を早くになくし、伯父夫婦に育てられた甲府生まれの伝吉。

江戸へ出て奉公して一旗揚げようと決意。身延山に願掛けをして江戸へ着いたが、浅草寺の仲見世の人混みで巾着をすられて無一文。

葭町の口入屋の千束屋を目指すうち、あまりの空腹さに耐え兼ねて豆腐屋の店先で卯の花を盗み喰い。

店の金公に殴られそうなところを、親方が止めて事情を聞く。
親方は伝吉と同じ法華宗の信徒で、今日はお会式の日というのも何かの因縁と、豆腐の売り子として奉公させることにする。

喜んだ伝吉は来る日も来る日も休まずたゆまず、荷をかついで美声を張り上げ、「豆腐ぃ~、胡麻(ゴマ)入りぃ~、がんもどき~」と売って回った。「先々の時計になれや小商人(こあきうど)」で、得意先も増え店は繁盛する。

三年が経ち伝吉の働きぶりと人柄に惚れ込んだ豆腐屋の親方夫婦は、伝吉を娘のお花の婿にした。

今まで以上に稼業に励み、隠居させた老夫婦に親孝行をつくす伝吉は、育ててくれた伯父夫婦へのお礼と、身延山に願ほどきに行きたいと申し出る。むろん老夫婦に異存はない。

喜んで旅支度してやり、ついでに二人であちこちと名所見物でもして、美味い物を食べて来いと小遣いをごっそりと渡した。
思い立ったが吉日と、若夫婦そろって翌朝出発する。

伝吉の売り子姿しか見たことがない近所のおかみさんたちは珍しがって、
「伝吉さん、おそろいでどちらへ?」
「甲府ぃ~ お参りぃ~、願ほどき~」

出て来る人がみんな善人・・というのは、「井戸の茶碗」と同じ。