【居残り佐平次】


「女郎屋の勘定が足りなくて払えない」とかけて
「自説を正当化する意地っ張り」と解く
その心は「いいのこれで(居残りで)」

吉原に次ぐ大きな花街だった品川を舞台にした、「品川心中」と並ぶ、廓噺の名作。
「居残り」というのは、出来の悪い子が、放課後に教室に残されるのではなく、昔の遊郭で、代金を支払えなかった場合に、代わりの者(一緒に来た者や家族など)が代金を支払うまで、その身柄を拘束したことを言います。

行灯部屋や布団部屋といった納戸に軟禁されるのが常だったそう。

貧乏人たちが集まる長屋で、その一人・佐平次という男が品川宿の遊郭に行こうと周りを誘う。

当然、貧乏長屋の住人らに遊郭で遊ぶような金はないが、佐平次は気にするなという。

品川の遊郭にやってきた一同は、佐平次を信じて飲めや歌えで遊び尽くし、一泊する。

翌朝、佐平次は理由をつけて自分はもう一泊する旨を仲間に告げ、皆を帰してしまう。

その後、勘定にやってきた店の者に佐平次は、先程帰った仲間が代金を持ってくるなどと言ってはぐらかし、今度は一人で飲めや歌えで遊び、また一泊する。

翌日になり、再び店の者が勘定にやってくるが、やはり佐平次ははぐらかし、また同様に一泊する。

やがて痺れを切らした店の者に詰問されると、佐平次はまったく悪びれず「金は無い」「仲間は来ない」と答える。

店が騒然となる中、佐平次はまったく慌てず自ら布団部屋に入り「居残り」となる。

やがて夜になって店が忙しくなると、店の者たちも居残りどころではなくなってくる。

すると、佐平次は頃合いを見計らって布団部屋を抜け出し、勝手に客の座敷に上がりこんで客あしらい(幇間)を始めた。居残りが接待する珍妙さと、佐平次の軽妙な掛け合い、さらに謡、幇間踊りなど玄人はだしであり、客は次々と佐平次を気に入り、佐平次は相伴に預かったり、祝儀までもらい始める。

客が引くと佐平次は再び布団部屋へと戻り、また夜になると客あしらいを始め、数日後には客の方から、あの居残りを呼んでくれと声まで掛かるようになってしまった。

本来の客あしらい(幇間)である店の若い衆らは、佐平次の活躍の分だけ、祝儀などをもらえなくなってしまったために、もはや勘定はいらないから佐平次を追い出して欲しいと主人に訴え出る。
佐平次を呼び出した店主は、もはや勘定はいらないから帰るように言う。

しかし、佐平次は理由をつけて居残るようなことを言い身の上話を始めたりする。

仕方なく店主は、さらに佐平次に金を与えるが、佐平次はさらに煙草まで要求して飲ませ、ようやく佐平次は店を出る。

店から離れたところで佐平次は、心配で後をついてきた若い衆に、自分は居残りを生業としている居残り佐平次だと名乗る。

さらに佐平次は店主はお人好しだと馬鹿にするようなことを言ってその場を去る。

急いで店に帰ってきた若い衆は、店主にそのことを話す。

話を聞き激怒した店主は「ひどいやつだ。私をおこわにかけやがったな」 と言う。それに対し、若い衆が一言。
「旦那の頭がごま塩ですから・・・」

・・・落語は、人間の業の肯定・・ですから、勧善懲悪でもなく、「まぁ、これぐらいの悪さは・・」と、許容する部分もあります。