【不孝者】

親と子で                

 (ご)石を潰して           

   (ひ)酷い金遣い         

     (や)やはり同じく       

       (く)癖悪く          

この噺を"純愛"だという、落語好きな女性がいましたが、そんな表面的なものではありません。

道楽者の若旦那に飯炊き権助をお供につけ、山城屋へ掛取りに行かせたが、権助だけが一人で帰って来た。
「山城屋さんで謡いの会があるからそれを聞いたら帰(けえ)ると言うので先に帰ってきた。後でお迎えに参りやす」
「顔に嘘ってと書いてある。いくらもらった、二分か」、「いや一分だ」
「場所は柳橋だろう。そうか、橋を渡った先の”住吉”か」

大旦那は権助と着物を交換して頬被りをし、権助になりすまして柳橋の住吉にやって来た。
迎えが来たと告げられた若旦那、「こんなに早く来やがって、下で待たせておいてくれ」、大旦那は下の部屋に入れられ待たされることになる。

若旦那は権助に気を使ってお銚子と肴を差し入れる。
大旦那 「馬鹿野郎、親をこんな部屋に通しやがって。この酒だって回り回ってわしの懐から出てるんだ」
二階の座敷では若旦那の唄う新内の声が聞こえてくる。
「おや、なかなか上手いじゃないか。でも芸者に習った唄は駄目だ。ちゃんと師匠と差し向かいで習わないと」

手酌で冷めた酒を飲んでいると襖が開いて、

「八ちゃん居ますか。・・・あ、失礼、ごめんなさい。酔って部屋を間違えて・・・」、あわてて閉めようとするのを、
「おい、ちょっと待ちなさい。お前”欣弥”ではないかい?」
「・・・まぁ〜、旦那じゃありませんか。どうしたんですその格好は・・・」
「これには訳が・・・、まぁ、こちらにお入りよ。・・・しばらく会わないうちに綺麗になったね。・・・今は旦那がいるんだろ?」」
「いえ、私は一人ですよ」
「それは芸者の決まり文句。いいんだよ、ここは二人だけだから」
「怒りますよ。私を捨てたのは旦那ですよ」
「捨てたんじゃありませんよ。あの当時は請け判を押してしまったせいで、店が人手に渡るところだった。間に入ってくれた人が、こんなときに女を囲っていてはまずいと、番頭に手切れ金を持たせてお前と別れさせたんだ。お蔭で店も立ち直って、お前に会いたいと思っていたんだ。でも、どうしてお前ほどの女に旦那がいないんだい?」

「本当は若い旦那がついたんですが、これがとんでもない人で、すぐに別れてその後は怖くて旦那を持つ気にもなれなかったのです」
「そうか、本当に一人なんだね。今はお前を世話するぐらいの力はある。どうだねもう一度、元の鞘に収まるというのは?」
「はい、嬉しいじゃありませんか。今日はお座敷があります。今度ゆっくりとお話を・・・いつ逢っていただけます?」
「明日は都合悪いから、・・・明後日にしよう・・・」
「きっとですよ、本当に約束ですよ」と、しなだれかかって、大旦那もグイッっと欣弥の身体を引き寄せた。
「お供さ~ん、若旦那さんのお帰りですよ」
「ちぇ、親不孝者めが」

・・・私の持ちネタ。

「不孝者めが」は、倅(若旦那)に一方的に「せっかく良い所だったのに、邪魔をして」 という、怒りの感情だけではダメ、親父が自分に向かっても自嘲的に言っている面があるはずだから、その含みを持たせて語らせないといけないんだよ。

師匠に、オチの台詞を言う時の、親父の了見を指摘(指導)されて、落語の深さを知りました。