【元犬】
「真っ白な犬のシロ」とかけて
「くすぐりが多く大受けの噺」と解く
その心は「尾も白い(面白い)でしょう」
・・・これはベタですね。
「取り調べで共犯者の所在を聴取する刑事」と解く
その心は「共犯者は元犬(もっといぬ)か?」
「シロ(タダシロウさん)は犬だったの?」とかけて
「ピッチャーの初球ボールで2球目はストライク」と解く
その心は「はい、ワンワンです」
動物が出て来る噺は、演る方も聴く方も好きなんでしょう。
寄席でも必ずと言っていいほどかけられています。
浅草蔵前の八幡様境内の野良犬、みんなから「シロ」と呼ばれて可愛がられ、「お前は体が真っ白だから来世は人間に生まれ変わるぞ」と言われてその気になっている。
どうせなら今すぐに人間になりたいと八幡様に裸足?で願掛け参りだ。
満願の朝、ピューと風が吹いて、気づくと白は人間になっていた。
真っ裸ではまずいので奉納手ぬぐいを腰に巻き、誰か見知った顔が来ないかと待っている。
そこへ口入屋の上総屋の主人が通りかかった。
シロ(若者)は奉公口を紹介してもらおうと上総屋に頼む。
上総屋は色白でいい男の若者を気に入り、自分の羽織を着せ店まで連れ帰る。
喜んだ若者は尻をふりふり後について行く。
角を曲がるたびに片足を上げる犬根性も残っている。
上総屋に着くと台所から入るように言われる。
つい先日、水をぶっかけられた所だ。
家に入ると若者は敷居にあごを乗せて寝そべったり、足を拭いた雑巾をしぼった水を飲んだり、猫を見ると「ウゥ-」と威嚇している。
朝飯とおかずの干物を頭からバリバリときれいに食べて茶碗をなめている。
主人はちょっと変わった若者だが、とぼけてひょうきんな人が欲しいと言っていた隠居の家にぴったりだと気づく。
早速、着る物一式を出してあげる。
若者は下帯をくわえるとグルグル振って首に巻き付け始めた。
玄関でおかみさんが用意した二足の下駄がない。よく見ると若者が両方履いて四つん這いになって尻を振っている。
隠居の家に着くと、女中の「おもと」さんが取り次いでくれる。
隠居のきれいな座敷に通された若者は畳のにおいをかいで、ぐるぐるぐると三べん回って横座りだ。
隠居は色白で、いい男で、ちょっと変わった風な仕草をする若者をすっかり気に入ったようだ。
上総屋は若者をよろしくと帰って行った。
隠居は若者に聞き始める。
「生まれは?」、
「蔵前の八幡様の近くの豆腐屋の突き当りのはきだめの脇」、
「ご両親は?」、
「雄(おす)は沢山いますが、表通りの呉服屋の伊勢屋のとこの白じゃあないかと思っています。雌(めす)は隣町から毛並みのいい黒いのが来て、ついて行っちまいました」、
「で、ご兄弟は?」、
「三匹です。一匹目は目の明かないうちに踏みつぶされ、二匹目は可愛いと近所の子どもが連れて行きました」、
「お前さん、年はいくつだ?」
「三っつです」
「あぁ、二十三か、で名前は?」
「みんな白って呼んでました」
「白太郎か四郎吉か?」
「ただ、白っていうんです」
「あぁ、ただ四郎、忠孝、忠犬の忠(ただ)か、いい名前だ」
「この頃は物騒で、女中のおもとと二人きりでは心細い。お前さんみたいな若い男にいてもらうと心強い」
「ええ、あたしは夜は寝ずに番をします。泥棒なんか入って来たらむこう脛へ噛みついてやります」
「いやぁ、頼もしいね、気に入った居てもらおう。さあ、茶でも入れよう。そこの鉄びんがチンチン煮立っているから蓋を取っといてくれ」
「へい、やります。はいチンチン」と大サービスだ。
「そんなにとぼけなくてもいいんだよ。あたしは焙じ茶が好きなんだ。そこの茶焙じを取っておくれ」
若者は分からずあたりをキョロキョロ。
「そこにあるホイロ(焙炉)だよ」
「ウゥ-ウゥーウゥ-」と、だんだん目の色が変わってきた。
「そのホイロ!」
「ウゥ-、わんわんわん」
「ああ、驚いた。もういいよお前には頼まないから。おーい、おもとや、もとはいないか、もとはいぬか?」
「はい、今朝ほど人間になりました」
・・・オチは、もうちょっと分かりづらいと思います。
白い犬だった若者がお店奉公を始めて、水戸様のお屋敷に掛けの集金行きました。
ところが、帰り道にスリに遭ってしまい、吾妻橋からみを投げようとする。
しかし、情け深い左官職人に助けてもらう・・・。
こういう噺を創作してみようか、名付けて「文七元犬」・・・どこかで聞いたような・・・?