太郎さんはその部屋に招き入れました。ドアの脇にある表札には阿武(あぶ)と書かれていました。
部屋に入ると、阿武さんは布団を畳んで隅に移動し、コタツらしきテーブルを部屋の中央に動かして太郎さんに座るよう勧めました。
そして冷蔵庫から冷やしたペットボトルのお茶をだしてくれました。
冷房の効いた部屋で冷たいお茶を頂き、太郎さんは元気が出てきました。
「掃除屋さん、君は昨日も来ていたね。アルバイトかい?掃除会社は安い給料でこき使うからな」
「はあ、まあ」
阿武さんは太郎さんを管理会社の清掃員と思い込んでいるようです。
太郎さんは今更自分はオーナーだと言いづらかったのでそのままあいまいな返事をしてしまいました。
「僕、ここに住んで一年になるけど、この頃はさっぱり掃除が行き届かないので気になっていたんだ。これじゃ折角の新しいアパートがすぐにぼろぼろになるからね」
「あの、連休中は家に帰らないんですか」
「会社は連休だけどこの期間は休日工事が入っているんだ。工事をするのは業者だけど、その立ち合いをしなければならないからで帰れないんだ」
工場では長期休暇を利用して大規模な工事を行うことが多く、関係者はこの期間出勤することになります。阿武さんもこの時期休日出勤していたのでした。
「今日は工事がないから部屋にいる。自宅に帰っても奥さんは親の介護で実家に帰っているので誰もいないしねえ。他の部屋の人たちは帰省してだれもいないのでゆっくり眠れるからその点は良いねえ」
「阿武さんはどんなお仕事ですか」
「ニコポン光学の工場立ち上げ準備室で総務関係の仕事をしているんだ。今はこちらにあるのは研究所だけだけど、来年から工場が稼働を始めるのでその準備をしているんだ。役所と交渉したり、業者を探したり結構忙しいよ」
「そうですか。それじゃ来年も沢山の人がニコポン光学に来るんですね」
「僕は総務担当だからこれから赴任してくる従業員の為にアパート探しをしなけりゃいけないんだ」
それを聞いて太郎さんは空室を埋めるチャンスだと思いました。
「実は、このアパートも一部屋空いていますよ」
「ああ、先月同僚が海外の子会社に出向したからね。でも、僕はこのアパートは勧めないね。他を探そうと思っているんだ」
太郎さんは思わぬ言葉にびっくりしました。
「ええっ、なぜですか?おしゃれで良いアパートだと思いますが」
「それはね」
果たして阿武さんがこのアパートを敬遠する理由は何だったんでしょうか?
続く

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