同期入社で結婚したK夫妻。結婚後もともに総合職としてバリバリ働いてきました。40歳で第一子が生まれましたが、退職金も夫婦合わせて2,500万円あり、申し分ありません。ところが、
子供も大学を卒業し、これからは2人で楽しい老後を過ごそうと計画を立て始めた矢先、夫が交通事故で急逝。63歳でした。
残された妻は途方にくれます。
遺族年金
Kさんの妻に対する国の補償…受け取れる「遺族年金」の額は?
「遺族年金」とは、国民年金または厚生年金保険の被保険者が亡くなった際、被保険者に生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2つがあり、亡くなった方の加入状況などによって、いずれかまたは両方の年金が支給されます。
遺族基礎年金の対象となるのは「子のある配偶者」もしくは「子」です。K夫妻の場合お子様がいらっしゃいますが、ご主人が亡くなった時点で成人されているため、これを受け取ることはできません。
ただ、Kさんが亡くなったご年齢が63歳であるため、妻は遺族厚生年金の「中高齢寡婦加算」を65歳まで受け取ることができます。
「中高齢寡婦加算」とは
遺族厚生年金においては、夫が亡くなったときに妻の年齢が40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない場合、65歳になるまでのあいだ58万3,400円(年額)が加算されます。
65歳以降の遺族厚生年金額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4となります。ただし、65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある方が、配偶者の死亡により遺族厚生年金を受け取るときは、「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の額」と「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の1/2と自身の老齢厚生(退職共済)年金の1/2を合算した額」を比較し、より高いほうが遺族厚生年金として支払われます※。
K夫妻は共働きで、妻は産後の早い時期から職場復帰されていたため、妻が受け取る65歳以降の年金について影響はほとんどありませんでした。
Kさんの妻が受け取る年金額は月額約15万円です。日々の生活費は20万円ほどかかるため、不足している5万円をなんとかする必要があります。
【生活費の内訳】
・食費……4万円
・住宅関連費……5万円
・水道光熱費……1,5万円
・医療費……5,000円
・交通費……1万円
・衣服、美容関連費……2万円
・趣味……1万円
・通信費……5,000円
・保険料……1,5万円
・その他……約3万円
分譲マンションの維持、管理費、固定資産税
※鉄筋コンクリート造(RC造)の法定耐用年数:47年(前法60年)
実際どれくらいの築年数の住宅にみんな住んでる?
現存する住宅の築年数の状態が分かる総務省統計局の情報を視覚化したのがご案内しているチャートです。(2015年時点)
日本のマンションは100年後「ほぼ存在していない」
早ければ50年後、遅くとも100年後にはほぼ存在していないことが確実だからである。
今の日本のマンションの100年後は、ほとんどないか、廃虚になっているか、建て替えられているかのいずれかである。
・・・RC構造の軸になっている鉄筋が酸化して、コンクリートが亀裂だらけになると、建物の構造が脆弱になり、やがては人が住めないくらい危険な状態になる。
一般的には10年~20年の期間に1度の頻度で、鉄部・外壁塗装工事、屋上防水工事、給水管・排水管工事、電気設備・エレベーター工事(入替工事)などの大規模修繕を、いつ、いくらの費用で実施するのかを計画します。
※日本人の平均寿命
マンションにおける「管理費」は管理人の人件費や共用部の電気代・清掃費などに、「修繕積立金」はエレベーターのメンテナンスや外壁など大規模修繕の際に支払う必要があります。
平成30年度の全国におけるマンションの平均管理費は月々1万5,956円/戸あたり、修繕積立金は月々1万2,268円/戸あたりです※。そのため、住宅ローンの返済がなくともマンションの維持費として全国平均で月々2万8,224円程度のランニングコストが発生します。
K夫妻の所有されているマンションは、ゆったりとしたロビーや庭園があり、外構部に植栽があるなど、共用部が充実しています。さらに管理人さんも常駐しているため、月々の管理費・修繕積立金が平均よりも高くなっています。
加えて、固定資産税も年間十数万円ほどかかりますので、月々の管理費・修繕積立金と合わせて年間60万円ほど必要となります。
「自宅」か「施設」かで大きな違い…考えておきたい“終の棲家“
今回、Kさんに先立たれた奥様ですが、平均寿命を見るとわかるように男性よりも女性のほうが長生きする傾向にあるため、「終の棲家」についてもよくよく考えておく必要があるでしょう。
誰しも、最期は人の手を借りて生活する場面が増えてきます。生活の場として自宅(在宅)で継続して過ごすのか、場所を移して施設で過ごすのか、選択肢は大きく2つに分かれます。それぞれ、どれほど備えがあればよいのでしょうか。
介護費用
在宅でも施設でも…一般的な「介護費用」の額は
生命保険文化センターが行った調査※では、過去3年間に介護経験がある人に「どのくらい介護費用がかかったのか」を聞いたところ、介護にかかった費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計は平均74万円、月々の費用が平均8.3万円となっています。
介護を行った期間(現在介護を行っている人は、介護を始めてからの経過期間)は平均61.1ヵ月(5年1ヵ月)で、4年を超えて介護した人も約5割と、半数以上の方が長期間介護を行っていることがわかります。
上記のデータをもとに単純計算してみると、準備すべき介護費用は74万円+(8.3万円×61ヵ月)=580万円となります。日々の生活費とは別に準備しておきましょう。
なお、上記調査で介護を行った場所別に介護費用をみると、在宅では月額平均4.8万円、施設では月額平均12.2万円となっています。
在宅の場合…「リフォーム費」の考慮を
自宅で過ごす場合、持ち家であれば家賃は発生しませんが、身体の状態に合わせてリフォームが必要になる場合があります。
マンションであればバリアフリーになっていることが多いですが、戸建の場合には玄関や廊下などに段差があることも多く、リフォームが必要になるケースが少なくありません。また、足腰の筋力が衰えてくるとトイレや浴室に手すりを備え付ける必要も出てきます。
リフォーム代の目安は、以下の通りです。
・手すりの設置費用……3~15万円ほど
・屋内の段差解消……1~10万円ほど
・玄関先の段差解消……10~60万円ほど
また、介護ヘルパーを利用する場合には介護サービス費が発生しますが、施設で過ごす場合と比較すると月々の負担は低く抑えることができます。
施設の場合…「タイプ」により金額に差
自宅で過ごすのは心細いという方は、施設に入所するという選択肢があります。ただし、「施設」と一口にいってもさまざまなタイプがあります。月額費用の相場は以下のとおりです。
・特別養護老人ホーム……5~20万円
・サービス付き高齢者向け住宅……13~23万円
・介護付き有料老人ホーム……20~35万円
など※
※ 施設の月額費用には介護サービス費、食費居住費、管理費などが含まれています。
また、特別養護老人ホームを除き、施設へ入居する際には一般的な入居費用としてサービス付き高齢者向け住宅で10~20万円ほど、介護付き有料老人ホームで30~600万円ほどかかります。
それぞれの施設によって方針・サービスの違いもあり、日々のレクリエーションが充実した施設もあれば、お酒やたばこなどの嗜好品が制限される施設もあるので、ご自身の生活スタイルに合った施設を探しましょう。
自分に合った介護サービスがわからない場合は、ケアマネージャーに相談するといいでしょう。ただし、ケアマネージャーにも医療に詳しい看護師から介護経験のある社会福祉士などさまざまな背景を持つ方がいますので、ご自身の意向に合った専門家を見つけてください。
まとめ
定年退職後の老後も、予想以上にさまざまな費用がかかります。またK夫妻のように、不測の事態が起こることも十分にありえます。
本来は夫婦2人で悠々自適な老後を過ごすはずであったK夫妻。妻は、今後必要になるであろう老後費用への不安から「死ぬまで働くしかないんですかね……」と、途方に暮れていました。
第二の人生を平穏に過ごせるよう、老後の生活に潜むリスクについて知っておくことが重要です。より詳細なプランを立てたい方は、お近くのFP事務所へご相談ください。
参考:
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役
※建築物の法定耐用年数
構造ごとの耐用年数の違い
建物の耐用年数は、構造や用途によって異なり、省令で定められています。住宅用建物の構造による耐用年数の違いは、以下のようになっています。
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材肉厚3㎜以下)
耐用年数:19年
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材肉厚3㎜超4㎜以下)
耐用年数:27年
重量鉄骨造(骨格材肉厚4㎜超)
耐用年数:34年
鉄筋コンクリート造
耐用年数:47年
木造
耐用年数:22年
用途による耐用年数の違い(RC造)
また、RC造の建物について、用途による耐用年数の違いは以下のようになっています。
事務所用
耐用年数:50年
住宅用
耐用年数:47年
病院用
耐用年数:39年
飲食店用
耐用年数:34年(延面積のうちに占める木造内装部分の面積が三割を超えるもの)
耐用年数の決め方
現在、耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められています。もとは昭和26年の「固定資産の耐用年数等に関する省令」でした。そこには、「固定資産の耐用年数の算定方式」というものがあり、これが耐用年数算定の元になっていると考えられます。
その後、1998年の税制改正により、RC造の住宅の法定耐用年数は60年から47年に変更されました。
※Webから