数日前から首から肩にかけて赤い発疹が現れており、本日仕事中に目眩などが酷くなってきたため仕事が終わってから夜間救急へ行ってきた。
看護師に症状を伝え順番を待つ。
ふと受付カウンターを見ると【1時間待ち】の文字が目に入る。そんなに待っていられない。その間に症状は悪化の一途を辿るに決まっている。
仕事場では同僚に「喉の辺りが腫れてきてるぞ」と言われ、俺が見るみる変わり果てて行く姿に心配をかけている。
そんな状態で一時間は待てない。
そういえばさっきからどうも熱っぽい。頬に手を当てる。
自分でも分かるほど火照っていた。
待合室には10数人の患者がいた。
勿論、全員体調が悪いわけではない。
およそ半数は付き添いの人達だ。
そんなときまた新たに急患が入ってきた。
10才ほどのグッタリした子供が母親におんぶされている。横にはゴツい旦那さんも。
すぐに車イスに座らされ母親が受付を済ませる。
看護師との話に耳を傾けるとどうやら過呼吸になっているらしい。
会話はなんとかできている様子だった。
どう見ても俺より早い処置が必要だった。
待ってくれ。確かに俺は見た目にはそこまで酷くはない。しかし今日一日、目眩や熱っぽさをこらえてようやくたどり着いた病院だ。
もっと言えば、ここ三~四日前から症状は現れているのを我慢しての今日なのだ。
かといって症状の重大さを考えればおのずと順番は入れ替わる。しかも子供だ。
親御さんの気持ちを考えれば当然の事だった。
しかし「俺もツラいが君の方がツラいだろう。早く行きな、ここは俺が盾になる」的な気持ちをなんとか少しでも分かってもらいたかった。俺は小さい人間だ。
残念なことにその家族が座っているソファは俺のふたつ前だった。
こっちを振り返ってくれない限り、俺の「君の方がツラいだろうアイコンタクト」が伝わることはない。
俺は小さい人間だ。
するとどうしたことか俺の方が先に呼ばれてしまった。
俺は苦しそうにしている子供の顔を見れなかった。
「申し訳ない…」
声に出そうだった。
親御さんに軽く会釈をして診察室に入った。
体育会系でゴツ目の若い医師だった。
体の異変を感じてから自分でもネットで似ている症状を調べており、ある程度覚悟していたので、病名を聞いてもショックはそう受けない。
帯状疱疹。
ストレスや疲れなどから起こる症状だ。
そのゴツい医師が俺の首や肩に手を当て症状を確認した。
「熱はどうですか?」
「計ってはないんですが、昼過ぎから火照っている感じがします」
火照っていると感じたのはさっきだ。
少しでもオーバーに伝えて心配してもらおうと思った。
小さい人間だ。
「では熱を計ってみましょう」
体温計を渡され、計っている間いろいろ質問されたが熱で頭がボーッとしているため内容は覚えていない。
ピピピッ
体温を計り終え、画面を見ると36.8℃と出ていた。
平熱だった。
息苦しい。オーバーに伝えたことが仇となった所から来る息苦しさだ。
「うーん。ヘルペスとか帯状疱疹とかではないみたいですね。」
「と、いうと?」
沈黙が流れる
「虫刺され…とか」
医師が「…とか」という曖昧な表現をしたのは面白かった。
「虫ですか…」
「…はい」
仕事中、体調不良で休憩をもらい三時間ほど寝ていたのも目眩がしていたのも熱っぽいと感じていたのも全て虫刺されによる体の過剰反応だった。
同僚には「喉の辺りが腫れてきてる」と言わせた原因が虫刺されだ。
虫刺されという診断結果を宣告され待合室に戻ると、先程の家族の父親だけが携帯をいじってソファに座っていた。
子供と母親は俺とは別の診察室に入っている様子だった。
「申し訳ない…」
声に出そうだった。