本『年上の女性』をはじめから読む → scene1


彼も自分も、散々振り回した私が、勝手なことを言う。

ただ・・自分が傷付かないために。

「歩太くんは、これから、学校を卒業して、

社会に出て大人になっていく。

そしたら、若くてかわいい女の子に目移りしちゃうよ。

そしたら、私なんかと付き合わなくて良かったって思うよ」

大人ぶって言う。



「俺のこと、嫌いですか?」



悲しい顔をしないで、歩太くん。



「もっと、若くてかわいい子はいるじゃない、

私なんて・・」

私は顔を下に向ける。



「俺のこと嫌いですか?」



さっきより力が入っている。

「・・嫌いじゃないけど・・」

狡い言葉を私は選ぶ。

嫌いだと、迷惑だと答えれば、

彼は諦めるだろうか。

進む勇気もないのに完全に拒む勇気もない。

そして彼は宙ぶらりん。


「じゃあ・・」



言いかける彼を制して、

「無理だよ。今はいいかもしれない。

でもいずれは心変わりするよ」



彼は怒鳴る。

「しない!!俺は自信がある!!

これからもずっと!!」



嬉しい。

でも悲しい。

私は彼に飛び込めない。



「無理だよ・・君は若すぎる」

言って私は背中を向けて走り出す。



「行かないで!」



縋る声が私の心を引き留める。

硝子扉に映る彼は、

今にも泣きそう。



無視して行けば良いのに、

私は立ち止まる。

答える。

行きたくないのだ。



「今は良いかもしれないけど、

この先、きっと現れる。

歩太くんに似合う、若くてかわいい女の子。

そしたらきっと、心は変わる」



硝子に写る彼を見れない。

彼はどんな顔をしているだろう。

私はどんな顔をしているだろう。



「そんなに信用ない?」



悲しげな声で彼は言う。

慌てて振り返り、否定しようとした。

彼の顔があまりにも、

悲しく辛そうなため言葉に詰まる。



「そんなやつじゃないよ。俺。」



彼の綺麗な目が赤い。

痛たまれなくなり、私は逃げ出した。

次へ[*]Next scene