本『年上の女性』をはじめから読む → scene1


「無理だよ・・」

泣きそうな顔をした彼を見ながら私が言った。

「目が赤い・・」

彼が言う。

違うよ。

目が赤いのは私じゃない。

歩太くんだよ。



彼は突然私を抱きしめる。

きつく、強く。

私は抗う。

でも、本気じゃない。

嫌じゃないから。

本当はそれを望んでいるから。



彼はゆっくり私から身体を離す。

そして腕を掴む手をゆっくり離す。

少しがっかりしている自分。

そんな勝手な自分に疲れる。

「泣いてる・・」彼が言う。



違うよ。

泣いてるのは私じゃない、歩太くんだよ。

彼の顔が歪んで見える。

泣いているのは自分だと気付く。

「ごめんなさい」謝る彼。

悪いのはあなたじゃない。意気地がない私。

「ごめんなさい。私・・自信がない」

彼をおいて、立ち去る。

「本当に駄目ですか?」彼の小さく震える声を背中で聞く。

小さく頷く。

彼も私が歪んで見えているかもしれない。

私は振り返らずに、彼から離れていった。

これからどんどん男らしくなっていく彼を、

どんどん歳を取っていく私が繋ぎとめる自信はない。

親に紹介なんて出来ない。

10も歳下の男の子にのぼせるわけにはいかない。

プライド、猜疑心、将来への不安。

邪魔するものがある。

そして私にはそのウエイトが大きすぎる。

つまらないと人は笑うだろうか。

それでも私には勇気がない。

それが私なのだ。

こんなつまらない私、彼に愛される資格はない。


次へ[*]Next scene