シネイド・オコナーの人生について

 

ご存じだろうか? ポップスに詳しい方なら説明は不要かなとも思うが、少なくとも僕の周りではあまり話題になる歌手ではなかった。昨年7月、壮絶な人生、長年にわたるメンタルヘルスの闘いの末、世を去った。自死ではなく、心が折れて死んでいく、僕の知人でもいたが心を病むということは身体そのものが病んでいくことなのです。

 

 彼女の経歴には詳しくは触れないが、母からの虐待から始まり、カトリックへの愛憎、息子の自死、様々な苦難を乗り越えてきた人生。まずは「Nothing Compares 2 U」のビデオを観て欲しい。彼女のボンズ頭は強烈な印象を与える。そしてまっすぐ見つめる大きな瞳。透き通る歌声。人を魅了するパフォーマンスだ。

 

 そして、彼女のキャリアを大きく変えた出来事。1992年10月3日の「Saturday Night Live」で、シャーデーの白いドレスを着てのパフオーマンス。生中継でのラスト。アカペラでボブ・マーリーの「War」を歌う彼女は、一枚の写真をカメラの前で破り捨てた。ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世の写真を。シネイド、26歳。皆さんに、ネットでカトリック教会の性虐待を検索していただければ、お分かりになると思うが、聖職者の酷い性的虐待が全世界で、大きな社会問題として取り上げられたのは2000年代になってから。その追及は今現在も続いている。

 

 マドンナはシネイドの過激な行動をやんわりと批判し、「Saturday Night Live」の翌週のゲスト司会者のジョー・ペシは番組でシネイドの写真を破って、観客の喝さいを浴びた。

 

 彼女の試練はまだ続く。テレビ放送から13日後、NYのマジソン・スクエア・ガーデンで行われたボブ・ディランのデビュー30周年記念コンサートに出演したシネイド、猛烈なブーイングを受ける。ディランの「I believe in You」を歌う予定だった彼女は、あまりのブーイングに歌うことができない。そして、意を決して、演奏を止めさせて、アカペラであの「War」を歌った。ステージを去る彼女を抱きしめるクリス・クリストファーソン。今、これらの画像はユーチューブなどで観ることができる。

 

 虐待を自らの痛みとして感じ、行動にでたシネイド。しかし、彼女の行動は、彼女のキャリアの停滞を招いただけだった。彼女のメッセージがマスコミを含めて、社会問題としてとらえられて、最終的にはローマ法王の謝罪までにはまだ時間を要した。21世紀になり、アメリカのメディアが大々的に取り上げ、世界各国で責任ある立場の司祭らが辞任に追い込れる。

 

 この一連の出来事は約30年の歳月が経った今でも色褪せないことが残念である。

 

  ※「シャーデの白いドレス」については、アベハ・マリボサ様のブログ「STREGER THAN PARADISE 踊るシャーデ観賞記」を参考にさせていただきました。