デイヴィッド・ホックニー展。東京都現代美術館。

 純粋に作品を楽しめた。作家に関する知識はほぼない。イギリス、アメリカなどを拠点とした経歴やざっくりとした作品の流れ。そして同性愛者であること。たぶんそれを早い時期にカミングアウトしたこと。そんな程度だ。

 自らのセクシュアリティと時代はアーティストの作品に複雑に絡みあい、そして時にはそれらに打ち負かされ、時にはそれらを凌駕する。特に、19世紀、20世紀のイギリスではゲイであることと時代を抜きには作品を語れない。オスカー・ワイルド、フランシス・ベーコン、そして悲惨な死を遂げたアラン・チューリング。

 渡米後のホックニーの明るい光の絵はこれらから解放されたこととは無縁ではないだろう。

 彼の色が好きになった。ルネッサンス以前から現代まで、文脈を感じさせる作品である。私が感じたのはピカソ、マチス、アンリ・ルソー、そしてゴッホ。時代、特に60年代以降をしっかりと感じさせる。自分なりの「絵解き」をしながら足を進める。

 大きな絵の前に立つと、うれしい嘆息がでてしまった。コラージュの作品も面白い。iPadによる、描絵のプロセスも面白い。彼の若々しい頭脳と好奇心の発露であろう。「四季、ウォルドゲートの木々」も、彼の関心がどこに行きついたかがわかる作品だ。いつまでも眺めていられる。

 最後に、僕はいつも展示作品の目録に感想や関連情報などを鉛筆でメモしながら、鑑賞している。今回は、その作品目録を入手しようとしたが、見当たらない。係員に尋ねたら、壁にあるQRコードを読み取り、pdfファイルで入手するとのこと。係員の手助けで、入手はできたが、当然書き込みはできない。仕方なく、持っていた文庫本の表紙の余白や後ろにある書籍紹介のページに書き込んでいた。しばらくすると、別の係員が見かねたのであろう、メモ用紙を渡してくれた。ありがたい親切。ほっとする。