いきなりですが、大工がどんどんいなくなっているメカニズムについてご説明いたします。

 

 この手記の主旨ですが、基本的には、一般の方に実情を知っていただきたい、ということです。

 テレビや雑誌等のいい加減な情報ではなく、現場からの一次情報を提供します。これから先は当分の間、任せて大丈夫なまともな職人を捜し当てることの難易度が相当に上がるので、十分気を付けて下さいね・・・と言う話です。

 

 もちろん、業界の方が読んでも、現状をきちんと言葉にして確認することは、それなりに意味のあることかと思います。

 

 

①     住宅建築の品質確保は現状、職人の良心と誇りが頼りである。

 

 工務店、大手メーカーを問わず、現在の住宅の品質確保は現場で実際に手を下す職人の良心と誇りに依存しています。良心と誇りは、きちんとした物作りを継続する上で大変強固な最後の砦ともなり得ますが、逆に職人のモラルが低いとどうにも救いようがなくなる、と言う危険をはらんでいます。実際にどうしようも無い状態の現場も多発しています。

 

 精密機械の工場や食品加工場の品質管理では、作業者のモラルに頼る・・・なんて、おそらくナンセンスなのではないでしょうか。検査以外にも、手抜きやミスが起らないような仕組みを、きっと何重にも工夫するものだろうと思います。

 

 建築では、現地生産、単品生産、管理者の常時不在等の悪条件もあってか、この仕組みがきちんと成立・機能していません。ですから、実際に問題のある施工がいつまで経ってもなくならないのです。

 

 一体どうしてそんな危険なことになっているのでしょうか。

 

 以下、順を追って説明します。

 

 

②     建築会社の多くは、

    「手間請発注」 方式を採用。

    下請けの職人に手抜きをするよう、プレッシャーをかけている。

 

  ご存知の通り大工の殆どは個人事業主であり、工務店や大手メーカーから外注で仕事を請け負っています。その請負形態のうち多くを占めるのが、

 

 「手間請」

 

と言われる請負形態で、この商習慣が施工品質低下、大工減少、衰退の大きな原因となっています。

 

 手間請というのは、工事を総合的に受注すると言うより、大工がその会社と取り決めた工賃で、木工事のみを請け負うものです。例えば、A社の商品Bハウスは坪単価3万円、C邸は30坪なので90万円で大工工事やってね、と言う具合。

 

 この90万円は「賃金」ではなく「売上」でしかないこと、また、単価(上記では3万円/坪)はほぼ一方的に決められていて交渉の余地が無いこと。これらもまた大きな問題ではあるのですが、今は脱線するので割愛します。

 

 さて、気が付かれる方もあるかと思いますが、手間請の大工さんって、施工品質(仕上がりの良さ)は報酬で評価されないのでしょうか?

 

 はい、ほぼ評価されません。

 「ありがとう。」がいただけます(笑)。

 うれしいし大切だけど、「ありがとう。」は食えません。

 

 信用が付けば受注に有利?

 

 いいえ、どっちみち大工不足で仕事が切れることはありません。出入禁止にならなければ良いだけです。売れっ子と言っても、みんな生身の人間で体力は有限、1日は24時間、出来る仕事量には自ずと限界があるので、販売業とは根本的に考え方が異なります。

 

 つまりここで、大工が収入を増やそうとすると、当然ながら「早いが正義」というルールが生まれるわけです。90万円のうち10万円が経費(車や道具の維持費、燃料、消耗品等)とすると、50人役だと1人役16,000円、40人役だと20,000円、20人役だと40,000(無理だけどね)と言う具合です。日数を詰める以外に、所得向上の手立てはないのです。

 

 日数を減らす方法は主に、次の4つです。

 

・段取りを良くして、手数を詰める。(大工だけではコントロール出来ない面も多々ある。)

・工具、作業方法、手順等を工夫して手数を詰める。

・夜討ち朝駆けの長時間労働をする。

・雑な施工、必要な処置の省略、釘ビス接着剤を減らす等の手抜きをする。

 

 ご想像通り、最も効果絶大なのは、4つめですね。

 

 というか、上の3つはもう十分やってるよ、これ以上出来るならやってるよ、という話。

 

 え?手抜きってバレないの?

 

 はい、検査程度ではバレないようなことは、あくどいやつなら、いくらでも出来ます。

 もちろん、後々問題が出てくるから手抜きな訳で、そういう意味ではいずれバレますが、大抵はお客さんが泣くか、元請けの負担で是正(出来ないけど)となるでしょうね。

 

 元請けの負担は、お客さんからあらかじめ頂いたお金から捻出されます。大手の場合、クレーム対策費というのがあらかじめ家の価格に練り込まれていて、聞いたS社の例では総額の6%程度です。3000万の家だと、180万円の保険代があらかじめ徴収されていることになります。

 

 さて、従って、手間請の収益性だけに着目した大工の腕というのは、如何に元請が許容するギリギリの線を見極めてそこを渡るか、または見えないところで誤魔化すか、という側面が生まれてしまうわけです。

 

逆に言えば、

 

「施主の為、元請のためを考えて誠実な仕事をすればするほど、自分の首が締まる。」

 

 という環境に、手間請大工は常に置かれています。

 

 

 不健康じゃないですか?

 

 

 このような発注方法を採用している多くのメーカーも工務店も、

 

 「お客様のことを第一に考えて。」

 

 「丁寧な施工が売りです。」

 

 「職人にこだわっています。」

 

と、謳ってはいるわけです。しかし実際には、それらはすべて認識不足か、はじめから嘘なのです。

 

 

 では、手間請発注側が大事にしていること、発注を手間請としている理由は、何なのでしょう。挙げられるのは、以下のような点です。

 

・読みにくく大ブレしやすい大工工賃がブレず粗利が確定する、定額発注であること。

 

・仕事が薄いときに簡単に切れる外注であること。

 

・仕事が粗くても高回転で工期(=経費)が抑えられる手早い大工を入替えながら揃えられること。

 

これらが理由です。

 

 ちなみに、技術を磨けば良い単価の仕事で稼げるぜ!というモデルは、大方は成立しません。手の込んだ住宅を高額で請け負うと、大抵は損をします。単価が2倍なら、手間は3倍かかるという感じの単価設定になりがちだからです。ですから、技能向上の動機付けも弱いのです。

 もちろん、独立開業するのであれば、技能向上は有効でしょう。しかし、今ここでは、下請けで働くタイプの大工について話していますよね。

 

 長くなりますので、続きはまた次回。

 

③ 建売大手の現場はこんな状態

④ 大部分の大工の生活が苦しい理由

⑤ 徒弟制度のオワコン化、それに変わる育成の仕組みは不備のまま

⑥        

           ・       

           ・

           ・

 

という感じで、お話ししていきたいと思います。   ではでは。