私はおそるおそる弟に向かって口を開きました。
「もしかしてーー内科系の薬も飲ませてないの?」

弟「うん。内科の薬もかえって調子が悪くなるから」

(うわー、弟がまともに介護できるわけないから
なにかやらかしているだろうとは
思っていたけど、やっぱりだ!)
再び、脳内で絶叫する私。

さすがに、驚きました。
まだ、精神科の薬に関しては、理解もできるんですよ。

なにしろ、弟は精神病に強い偏見を持っています。
統合失調症は〝脳の病気〟だと理解することもできず
「気持ちの問題だ」とアホなことを言い続けていました。

当然、母が「精神科を受診したい」と
言った際にも大反対。
ですが、土下座して頼む母に根負けして
しぶしぶ受診を許可したのです。

その後もずっと文句を言い続けてたから
母の力が弱まり、父もいなくなったら
自分の考えを優先するのはしかたないです。
実は通院さえしていないかもーー
とすら考えていました。

ですが、まさか内科系の薬まで
飲ませていなかったとはーー。
内科へは定期的に通っていることは知っていたし
内科系の薬の効能は否定していなかったので
本当に驚きました。

同時に弟のことが、さらに理解不能になりました。
いっそね、「通院もしない」
というなら理解できるんですよ。

最初のころ、私も精神科への通院に付き添っていたので
2〜4時間もかかることを知っています。
さらに、診察料に薬代もかかるとなったら
弟が「行きたくない」と思ったとしてもしかたないです。

でも、ICUの医師が薬のことを知っていたのだから
きちんと薬を購入していたわけです。
通院して薬も購入しているのに
「飲ませない」のは理解できません。
時間も金もかけていてGETした薬を
どうして、無駄にするのでしょう?

なんで⁇ なんで⁇
疑問符だらけになる姉ちゃんでした。

蛇足ではありますが
内科系の薬を飲んでいないことが
バレなかったことも不思議です。

精神系に関しては
母は耳が遠くて、かつ認知症もあって
きちんと受け答えができないから
見過ごされてもしかたありません。

けれど、内科系は数値を調べれば
薬を飲んでいないことが
すぐにわかると思うんです。
なぜ、内科医は気づかなかったのでしょうか?

もしかしたら、我が家の場合
息子と同居していることで
薬を飲んでいないとは思われず
症状に改善がなかったり
悪化していたりしても
「歳のせいだからしかたない」
と見過ごされてしまったんでしょうか?

だとしたら、バカな子どもと暮らすのは
一人暮らしよりもずっとこわいですね。

病院に着いた私は、弟と合流しICUへ向かいます。
そこで見たのは、全身、管だらけになって
ベッドに横たわる母の姿でした。

この時の母は意識がないことにくわえ
自力で呼吸できず
口から人工呼吸器を挿入されていました。

医師いわく
「意識不明になった理由も
呼吸ができない理由もわかりません。
脳に問題はないですし
気管や肺にも問題がありません」

私がぼんやりと
(高齢だからしかたないか〜)
そう考えているうちにも
医師の説明は続きます。

医師「もしかしたら、薬の影響もあるのかもしれません」

弟「いえ、薬は飲んでいません」

その言葉に、思わず「はぁ?」となる私と医師。

医師「えっ? 自己判断で投薬をやめたんですか? 精神科の薬は勝手にやめると、かなり強い副作用がでますよ?」

弟「薬を飲むと、かえって体調が悪くなるので、2〜3年前から飲ませてないんです」

医師「症状は悪化していませんか?」

弟「はぁ、半年ぐらい前から、〝こわい、こわい”って言うようになりました」

(うわー、せっかく寛解していたのに
思いきり症状が悪化している!
どうして、症状が悪化しているのに
薬を飲ませないんだ⁉︎)

弟の言葉を聞き、心の中で絶叫する私でした。

さらに、私はおそろしいことに気づきました。
お医者サマが最初に口にしたのは
「薬の影響」とだけ。
「精神科の」という枕詞はありません。
そして、弟も「〝精神科の”薬を飲ませていない」とは言っていません。

おそらくではありますが
精神科の薬の中に
意識や呼吸器に影響が出るものがあり
弟が「薬を飲ませていない」と答えた瞬間
お医者サマは反射的に
「精神科の薬」と判断されたのでしょう。

そして、母が常用しているのは
精神科の薬だけではないのです。
すごくイヤな予感がします。

5月4日、AM6:40。
iPhoneの着信音で目を覚ました私は
画面に表示された『実家』という文字を見て
(あっ、母になにかあったな)
と直感しました。

親族の葬式の連絡すらしない弟です。
要件があるとしたら、母の異変以外にありません。

電話に出ると、案の定、弟から
「昨晩、オフクロが意識不明になり
救急車で病院に運ばれ
ICUで治療を受けている。
面会は11:30からできる」と告げられました。

母は一昨年の10月には寝たきりになっていて
(もう長く生きないな)と覚悟をしていました。
さらに、その後のおとろえぶりも見ています。

ですから、私は冷静に病院名と面会時間を確認し、電話を切りました。