山には神様がいるのよ。私もこの仕事に就いて初めて知ったんだけど、林業に携わる人たちの間では常識なの。


職場のホワイトボードの上にある神棚は…?


私はそんなに信心深い方ではないから、細田さんが御神酒をあげたり、榊の水を替えてくれてる。今上さんが来る時間には、もう全ての儀式は終わってるから、見かけたことはないかもしれないけどね。


山の神様って山を守るんですか?


私もそんなに詳しいわけじゃないから、なんとも言えないけど、山の神様は山を守っている。そこに生きとし生けるもの全てを守っている。


じゃあ林業に携わっている人たちもみんな守られてるんですね。


あなたは楽観主義者?


え?…まぁどちらかと言えば…


人間はどちらの側だと思う?山を守る側か、壊す側か。


…壊す側なんですね。


そう。山の神は人間を自分の側にいるとは見做していない。


じゃあ…


人間は排除されるべき存在。


どんなふうに?


え?


どんなふうに排除されるんですか?


聴いた話なんだけど…林業に携わる人たちが一斉に山を降りたり、仕事をしない日がある。


はい…業務カレンダーに課長は「山の神」って書いてた日ですね。


すぐに削除したのに、見てたのね。


はい。一瞬でしたけど、表示されてて…いつか質問しようと思ってたんです。


神様は、定期的に山の木を全て数えるって言われている。そしてその数は絶対なの。その日に1本でも多ければ、その数を揃えるために神様はその木を排除する。


はい。


山の木が一人前になるのには何十年の歳月が必要。じゃあなぜ1本多いと勘定されるの?


…わかりません。


そこに木に間違われる何かが存在してしまい、神様はそれを数えてしまう。


…人間…


そう。そしてその「余分な木」は数合わせのために排除される。


そんな…


どんな産業よりも、林業の死者が多いって聞いたでしょ。


はい。


神様は絶対にしくじらないのよ。



さ、着いたよ。ヘルメットと長靴を忘れないでね。山ヒルとか山ダニは怖いわよ。


ヒルとかダニとかもうどうってことないですよ。神様ですって、怖いのは。


山ダニを甘く見てはダメ。あいつらが運ぶ病気で毎年死者が出てる。


え?


山ダニは神様に認められてるからね。神様の側。