アルゼンチンの作家であるマヌエル・プイグの最大のヒット作。「El Beso De La  Mujer Araña」がスペイン語の原題。besoは、英語のkissです。「ベソ」が「キス」だなんて、ややむず痒い感じだが「ベサメ・ムーチョ」が「キス・ミー・マッチ」だとすると、ピンと来る方もおられるのでは?


ストーリーはこうだ。


モリーナというゲイの女装男性が未成年の少年への性的イタズラで逮捕され、青年革命家ヴァレンティンと同じ房に入れられる。最初はモリーナを毛嫌いしていたヴァレンティンだったが、次第にモリーナの優しさに絆されていく。


モリーナは自分が見てきた映画の話をヴァレンティンに聞かせる。体を壊したヴァレンティンを献身的に手当てするモリーナだったが、いつしかヴァレンティンに恋心を抱くようになる。


しかし、この監獄での2人の関係には裏があった。この純愛の行方は?仮釈放になったモリーナはヴァレンティンからのメッセージを誰に届けるのか?切ない結末が胸を打つ。


小説は、モリーナとヴァレンティンの会話だけで、95%以上が構成されている。この脚本そのものとも言える小説は、地の文が存在せず、互いが交わした言葉そのものを読み進めるため、2人の感情が直接心に迫ってくる。


気持ちを隠しながら、ぶつけながら、2人の想いが蜘蛛の糸となって絡み合い、濁りのない純愛に自分の恋愛観を検証させられる覚悟が必要となる。


モリーナは見事な映画の語り部であり、その選択とストーリーは決して2人の恋と無関係ではない。この効果も絶大だ。小説を読みながら、読者は何本もの映画が目の前で上演されるかのような愉悦を味わう。


1976年に出版され、1985年にエクトール・バベンコ監督により映画化された。モリーナを演じたウィリアム・ハートはアカデミー賞主演男優賞を受賞している。


この作品はストレートプレイやミュージカルにもなり、ロバート・アラン・アッカーマンの演出で村井国夫さんがモリーナ、岡本健一さん、高橋和也さん、北村有起哉さんが、ヴァレンティンを演じている。


プイグ自身がゲイであり、マチスモ(マッチョ礼賛主義)のラテンアメリカで感じていた生き辛さが創作の原動力になったという見方もある。プイグは素晴らしい作品を残して、57歳でエイズにより亡くなっている。


シナリオライターとしてデビューすることを目指しながら作品を作っていたが成功できずに、その経験を小説のスタイルの中に生かした。他の小説においては、日記や手紙をコラージュするなど映像的な新しいスタイルで成功を収めた。