1990年、サザンオールスターズの桑田佳祐さんがメガホンをとった映画「稲村ジェーン」が公開されました。


興行的には成功をおさめ、主題歌の「真夏の果実」は名曲で、時代を超えて愛されていることは周知の事実でしょう。映画音楽には、小林武史さんもクレジットされています。


サーフィンに青春を燃やす若者たちの友情と恋の物語。加勢大周(初代)さん、的場浩司さん、清水美沙さんなどが出演している。正直、映画としては、少し物足りなさを感じました。内容としてはまっすぐで捻りのない、映画にしなくても…という印象でした。


ビートたけしさんの映画評論集「仁義なき映画論」の中で、この「稲村ジェーン」についてはかなり厳しい批評がなされています。「音楽映画」に過ぎない、長く感じる、など歯に衣着せぬかなり攻撃的な意見で貫かれていて、読みながら「そこまで言わなくても…」どう感じたことを思い出します。ただ、たけしさんは、音楽家としての桑田さんの才能については、手放しに高く評価しています。


この評価に対して、桑田さんも「たけしさんは感性が足りない」「若者の気持ちがわかっていない」などと反論を試みています。


ビートたけしさんは、映画監督の時は北野武の名乗っています。映画への批評は映画で、とでも言いたいのか、1991年に「あの夏、いちばん静かな海」を公開されました。


ゴミ回収を生業とする、耳の不自由な青年「茂」が、ゴミとして拾ったサーフボードを修理して、同じ障がいを持つ彼女である「貴子」を海へ誘います。サーフィンにのめり込む茂とそれを見守る貴子の静かな日常を描いた物語です。


茂は、サーフィンの大会を目指して猛練習に励みます。耳の不自由な茂の挑戦を周りのサーファーたちは馬鹿にしていましたが、その真摯で純粋な魂が何度失敗しても海に向かう姿勢に感動して、応援するようになります。そんな中、物語は唐突にあっけないエンディングを迎えます。


映画音楽は最小限。台詞すらほとんどない。交わすべき愛の言葉もない。ただひたすらにそこに存在し合う中で、確かめ合うしかない愛の実体が、この上なく研ぎ澄まされ、異物の混入を許さない純化されたものに思えてきます。


この映画が僕たちは問いかけているのは何なのでしょうか。それぞれが感じ取れば良いのだと思いますが、それを言語化する前にじっくり考えたみる必要があるのではないでしょうか?蓮實重彦さん、勝新太郎さんなど多くの人がこの映画を高く評価しています。


その後、北野武さんと桑田佳祐さんは、お互いのコメントの中で互いに対するリスペクトを伝え合っています。才能豊かなアーティスト同士が互いの価値を見誤ることはないのですね。僕はホッとしましたのを覚えています。


2021年に、ビートたけしさんの青春時代を描いた「浅草キッド」という作品(監督は劇団ひとりさん)で主題歌に桑田佳祐さんの曲が使われている事実はある種「和解」「相互リスペクト」を象徴する出来事だったと捉えるのは、やや穿った見方でしょうか。