彼は台風で同窓会にいけなかったことを「仕方ないよ。天候のせいだし」と諦めるしかないという口調で話していた。ちゃんと聞いていなかった僕も悪いけど、大谷の大記録のおかげで集中力はそっちに持っていかれていた。彼の最後の言葉はこうだ。
「夢みたんだよね、同窓会の」
彼が話していたのは、①飼っているウサギ→②同窓会→③朝方みた同窓会の夢
僕は驚いて訊き返した。
「ウサギが同窓会の夢をみたのか?」
そう①と③が僕の頭の中で勝手に繋がった。
彼は腹立たしそうに言った。
「お前さ、そんなわけないだろ。ウサギが夢みるかどうかなんか知らないし、同窓会の夢をみたのは俺だよ」
結構な呆れ方だった。ま、仕方ない。悪いのは僕なんだから。僕はお詫びのつもりで(お詫びにはなっていない)何の脈絡もなく、作り話を始めた。
「ウサギたちは同じ小屋の中で生まれた。ペット用に繁殖させられたウサギたちは、生まれた週によって世代を区切られている。例えば、ムギくんの生まれた世代をβ世代だとする。その世代のそれぞれの子ウサギは、一番可愛い時にペットショップに配送されていく。ウサギは神経質で愚かだ。でも別れの時はわかる。彼らは別れを嘆いて真っ赤な目をして泣くんだ」
「は?何の話だよ」
「まあ聞けよ。彼らは別れの時に互いに誓い合うんだ。」
「何の誓いだ?」
「大概、再会の誓いだろ」
「知らねえよ、そんなの」
「再会の時に集まれるやつもいれば集まれない奴もいる。集まれないのは、売れて家庭で飼われているやつと、サファリパークのライオンとかの餌にされたやつだ。同窓会に集うのは、売れ残ったまま年をとって保健所で殺処分される連中だ。彼らは『よぉ久しぶりだな。元気だったか?』『最近、ウサギはペットとしては客受けしてないのか』とか挨拶をして、ペットショップでの待遇の悪さや客の質が落ちた話をしたりして一晩を明かす。次の日の朝、彼らは神に召されるんだ」
「酷い話だな」
「だからさ、供養に行こう」
「どこだよ。この先に神社があったよな⁉︎」
「ああ…ちょっと待てよ…あった!!鵜戸神宮だ」
「ま、どこでもいいか。そこにしよう」
地図アプリで調べて鵜戸神宮にたどり着いた。空模様が怪しく、傘も持たない僕たちは、小雨の中、本殿近くまで登ってきた。そこで彼と僕は腰を抜かしそうになった。
参道には結構な数のウサギの像が参道の両脇にあり僕たちはその間を歩いて本殿へと向かうことになったのだ。海に向かって祈っているウサギもいた。
僕は自分が思いついた無責任な作り話を責められているような気持ちになり、ウサギの像と目が合わせられなかった。彼はそんな僕を見て言った。
「ウサギたちの同窓会は、ここで催されていたんだな」
「そ、そうみたいだな」
「よかったよ、残酷な終わり方じゃなくて」
「拝んで行こうか」
「ああ」
本殿は岩山がくり抜かれた場所にあり、不思議な雰囲気が漂っている。そこには「撫でうさぎ」の像があり、撫でると病気が治ったり、開運の効果もあるらしい。
僕たちは、キツネではなく、ウサギにつままれたような不思議な気持ちでその場所を後にした。