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morrowesprit

sijimanite


体育はめんどくさい。炎天下の中よくもまあボールなんか追ってられるもんである、二十分位授業に参加して、いつも通り体調不良を訴えグラウンドの隅で見学していた。
青すぎる空、どうして空は青色なのだろう。
僕はこの青すぎる空が大好きだ、人々
が人生に迷い、空を仰いだ 時、この青に希望を貰うのだろう。まだ友達と自転車で楽しく登校してた頃を思い出した。急に寂しさが胸を占領する、だが、孤独と手を繋ぎ生きていく、と決意した悲壮美が、冷たく固く心を包む。
「あぶない!」
「え?」
遅かった、サッカーボールが僕の顔面にぶち当たった。
遠くで数人がニヤニヤしながらこっちを見ている。舌打ちをして顔を撫でているとあっという間にまた試合が再開された。
このクラスメートと僕との間には厚い壁がある、ベルリンの壁と同様、いつか自らぶち壊す日が来るのだろうか。
ボールが当たった衝撃で頬に流れた涙を手の甲で撫でながら空を仰いだ。それは青すぎて何だか神々しくてゾッとした。
五時間目の授業が始まった。昼飯後の教室には魔物がやってくる、聞こえる全ての音が子守歌に変わるのだ。
うとうとしながらも、無性にもう一度あの空を眺めたいという衝動に駆られ教室を出る。クラスのみんなも先生も僕を目で追うが何も言わない、どこかでボソボソと、またどこかで舌打ちが聞こえた。
三組の廊下を通り過ぎる時、あの子が見えた。今日は髪を結んでる、視力が弱いのか少し目を細めながらノートをとっていた。そのしかめっ面が可愛く見えると一瞬思ったが、すぐに気のせいだと否定した。彼女が僕に気付きこちらを見る、『なにしてんの?』と聞こえてきそうな表情である、僕はとくに笑顔を見せるわけでもなく、進行方向に目線を戻し歩き始める。数メートル先の廊下の突き当たりで社会の先生がこっちを見ている、確か杉村という名前だったか。
細身の長身で、切れ長の瞳で眼鏡越しに冷たく僕を覗く。何か言われそうでめんどくさくなって教室に戻ることにした。
「おい、体調が悪いのか?保健室に行くんじゃないのか?」
「いえ、別に」
「じゃあ何だ?ふらふら授業中に歩いてたのか?」
「はぁ、そうです」
何故だかわからないが、僕を含め他の生徒もこの先生だけには敬語で話す。
噂では歴代の先輩が杉村にタメ口で話した途端、学校生活が地獄と化したとかなんとか。独特の馴染みにくいオーラや、他の先生とは違って生徒との距離を全く縮めようとしない空気が漂っている為、恐れられている。
「お前ふらふらする余裕があるくらい優秀だったか?だいたい授業はどうなってる?自習ならまだ他の生徒を見かけてもいいはずだが」
「教室に戻ります」
僕は踵を返す。三組の何人かがにやつきながら僕を見ていた。
「待て、そのポケットの膨らみは何だ?」
やばい、困った。身体が固まってしまい露骨な反応を見せてしまった。タバコは勿論、携帯電話も禁止だ。いつまでもこうしてるわけにもいかず顔だけ振り向いた。
「え?」
「それ、何だ?見せろ」
低い声でズボンの右ポケットを指差す。
「何故ですか?」
「どうして出せない?」
「出す必要がないからです」
「出したらまずいのか?」
「何故そう思うんですか?」
「どうした?そんなに青い顔して?汗もすごいじゃないか、そんなにおかしなもの入れてるのか?」
何も言えない、いや、こいつの圧力が凄すぎた。杉村は黙り、僕を上から見下ろすように覗き込む。
「知ってるぞ、お前、煙草持ってるな?何人も見てるんだ」
間を置き、僕の反応を観察している。
「登校時、下校時、学校周辺の住民の方から沢山苦情が届いてる、それだけじゃない、非喫煙者には喫煙者の身体に付いた煙草の煙の匂いに敏感なんだ、わかるな?お前から煙草の匂いしかしないと言ってるんだ?ん?」
絶体絶命とはこの事か。手の汗をズボンで拭いた、下ばかり向いていたために、首が限界だった。
「もし、もし仮に何かの間違いでたまたま煙草を吸ったと今自白するならば、簡単な処分で済むぞ。生徒指導の先生と校長には私がフォローしておく、どうなんだ?もしかしたら悪友に誘われてたまたま喫煙したんじゃないのか?」
コイツが言ってるのは全部でたらめだ。巧みな話術で誘導させ、僕の口を割らせる、逃げ道を作り僕をそこへ誘い出すという汚らしい罠だ。
急に廊下の窓から涼しい風が首を撫でる。窓に切り取られた空を見た。
そうだ、大人は僕らを騙すんだ、こうやって僕達を操るんだ。
「煙草を吸った事なんて一度もありません」
杉村の顔がわずかに曇った、注意して見てないとわからないくらいの変化だった。
「そうか、じゃあポケットの中見せて見ろ」
「嫌です、見たけりゃ強引にどうぞ、
そしてこの事を親や新聞社に報告します」
「は?何だって?!」
苦肉の策だった。勿論そんなことはしない、"新聞社"だなんて言って自分で笑いそうになった。
「そんな疑い着せられては僕も憤りを感じます、辛すぎてもう学校なんか嫌になりそうです、見たけりゃどうぞ。
抵抗はしますが僕を暴力でねじ伏せて確認すればいいじゃないですか、希望の物が出てくるといいですね。でも、
もし出てこなかったら先生どうするんです?」
言ってしまった、もう後がない。神に祈るしかなかった。
「お前」
僕は黙って杉村を見上げた、いや、杉村の眼鏡越しに見える目に捕らわれ動けなかった。
「そうか、まぁそれならいい。後で担任の先生に報告しておく、そして逃げれたと思うなよ」
僕の目の前まで顔を寄せ、鼻先を指差して眼鏡越しに僕の目を覗いた。『行け』と言われ踵をかえし、教室に向かった。安堵と同時にただならぬ不安が僕を襲った、とんでもない間違いを犯したのかもしれないと。
いつまでこうしてただろう、教室の自分の席の前に突っ立ったまま机を眺めていた、ついさっきまでそこにはなかった修正液で書かれた"GOODBYE"の落書き。クスクスと笑い声が聞こえる、楽しいのだろうか、楽しいのだろう。とりあえず着席し、何食わぬ顔で落書きを隠すようにノートを机の上に出した。窓を全開にしても生温い空気の教室は、蝉の鳴き声で余計に居心地が悪かった。

「おそっ」
「やあ、君が早すぎなんだよ」
森がけたたましく叫んでいる。実際は蝉だろうけど、漠然と森を見ているとそう感じた。杉の林の木漏れ日がお寺の石階段を照らす。階段に腰掛けて裸足になる。水路に流れる水の音が少しだけ清涼感を与えてくれる。初めは指先、徐徐に慣れさせながら、足首辺りまで水路に沈めた。首にかけたタオルで額の汗を拭き、シャツのボタンを一つ外して、うちわで背中に空気を流す。
学校から十五分くらいの所にある森に囲まれてひっそりとした二つ目の私のテリトリー。彼と友達宣言してから一ヵ月くらい経つだろうか。その際へんてこな条件を出された。それは全部で三つ、 学校では彼に話し掛けない事。二人が友達なのを秘密にする事。
非常階段では、三階は彼の場所なので私は四階とする事。
偉そうに訳のわからない約束を迫るため、こうして下校時にはここで話すのが日課になっている。
「火貸して」
「マッチならあるよ」
「マッチ?ダサくない?」
「なら答えはノーだ、タバコなんてやめちまえ」
「あ、あった。内ポケットにあったんだ」
「ちぇ」
変な奴だ、最初の印象からそれだけは変わらない。妙に偉そうな喋り方をするもんだ。大体男女がこうしてほぼ毎日二人きりでいるのに何も感じないのだろうか、それに名前も連絡先も聞いてこない。まあ、私もそうである。ただ一緒にいて世界観を共有できるという事に喜びや親しみを感じている。なんだ、結局コイツと同じか。
ぼんやり考えていると、彼は鞄からノートとシャープペンシルを出して何かを綴りだした。ここ最近ずっとこうだ、痺れをきらした私は何を書いているか問う事にした。
「授業だけじゃもの足りずまだ勉強ですか?」
「まさか、そんな選択肢は僕には皆無だよ」
「じゃあ何してるの?」
「書き留めてるんだよ、今の内にね」
「え?何を?」
「詩だよ、ポエムさ、リリックだよ」
「へー、見たい」
「どうぞ」
「ん?何このタイトル、ろすじん?」
「それは"ロス人"と書いて" LOST"って読むんだ、僕達は取り残された、置いていかれたって意味を込めてるんだよ」
「たち?」
「ん?」
「だから僕達って君の他に誰か含まれてるって事だよね?」
「あぁ、いま目の前にいる君だよ、よく気がついたな」
「ったく、男は何かにつけてカテゴライズしてネーミングしたがるよね、まあでもいいかも、"ロスト"か」
「そうだよ、君も書き留めとくといいよ、いつか必ず消えてしまうんだ、大人になるにつれて子供の頃の世界観や思想をね。いいや、意図的に消されちゃう、かな。違った、忘れちゃうんだよ。そうそう、サンテグ ジュペリの"星の王子さま"にもそんな事書いてある」
「ふーん、でも楽しそう」
そう思ってパラパラとページをめくった。面白い事にほとんどのリリックに共感を持てた。全て排他的、独創的、
悲観的で私の手帳を眺めてるみたいだった。
ふと彼の携帯が鳴った、相手を確認するや否や、一瞬顔が歪んだ、しかし電話に出る。聞き取れない寝言のような口調で話し、終始暗い表情していた。
電話を切るとすぐ"ロス人ノート"を鞄に納め出した。
「あ、帰るんだ、友達から?」
「そんなわけないだろ、僕の友達は君だけだ」
「あぁ、じゃあ親?」
「彼女だよ」
「そう、会いたいって?」
「うん」
「そっか、なら私ずっとここにいるよ、用が済んだら戻っといでよ」
「は?帰んないの?用だっていつ終わるかわかんないぞ?」
濡れた足をタオルで拭いて、そのままローファーを履く。
「いいよ、明日土曜でがっこ休みじゃん」
「よくないよ、帰れよ」
「心配してんの?」
「なに急に意地悪になってんだよ」
「じゃあ約束、明日の昼にここ集合ね、OK?」
「は?がっこ休みじゃん」
「OK?」
「はー、わかったよ、じゃあ帰るんだよ」
「うん」
明日ぶん殴ってやる。彼の自転車を漕ぐ姿を見送りながらそう決めた。
何が孤独だ、何がロストか、被害者演じて世界は暗闇だなんて完全に被害妄想だ、ちゃんと満たされてる。彼女がいるじゃないか、騙された、くそ野郎め。
「私だけ本当に一人ぼっちなんだ」
小さく声が漏れる。裏切られた気がした。でもどんな彼女か気になる、しかも休日にあいつと合うのは初めてだ、
人嫌いのあいつが会う約束をしてくれたのは奇跡に近い。明日が楽しみだ。
煙草をくゆらせ、オレンジの空を眺めながら、自転車の籠にスクール鞄を投げ入れた。

「やあ、待った?」
「あんた遅いんだけど、てか制服?!馬鹿?」
「え?マズいのかな?」
「マズいでしょ、クラブ行くんだから、じゃあ商店街行こ、適当に服買ってやるよ」
「うん」
着慣れない服を着せられ、夜の繁華街に連れてこられた。虫も人も結局灯りに集まってくるんだなと思った。
「ハローしゅり!てか今日もめっちゃ可愛いね!前の方行こうよ、今日のDJ最高にクールだよ!行こ!」
「また後でね、なゆた、帰んなよ」
「うん」
低い音というか地鳴りのような振動が腹に響く。スモークとレーザー光線、
日常を遥かに凌駕した異空間がそこにはあった。
狂うように首を振る奴もいれば片隅にしゃがみこみ、にやつきながら白目剥いた奴もいる。初めて来た時は、驚きと自分の知らない世界の接触、という恐怖で落ち着かなかった。慣れてしまえばなかなかいいものだ。キチガイみたいな奇声が聞こえる先に視線を向けるとしゅりがいた。悪魔にでも贄を捧げる儀式のように踊り狂っている、こんなに狂った女は初めてである。あんな事なかったらとっく縁を切っている。
音楽は好きだ、トランスやテクノみたいなクラブミュージックも嫌いじゃない、まあ好んで聴きはしないが。
しかしとんだ約束したものだ、なんで休みの日にわざわざ学校付近まで行かなきゃならないんだろうか。でも行かない訳にはいかない、約束したし、友達だ。
今日は適当に見計らってここを抜け出そう、じゃないと朝までつきあわされる。明日は鬼着信、鬼メールは覚悟しないといけない、だが仕方ない、緊急事態だ。バーテンダーにシャンディーガフを頼み、テーブルに座りイヤホンをはめた。
『今の気分は、そうだな、ショパン の夜想曲だ』
ピアノの遠くでほのかに聞こえるテクノの轟音、なかなかの美しさだと思った。

十三時八分。あいつはこない。スルーか?それなら許さない、明日あいつのクラスに行って『おはよー』って叫んでやる、顔が引きつり、絶望に満ちた表情が目に浮かぶ。
にやけてるうちに遠くから本日五台目の自転車が見えた、どうせおばちゃんだろうと目を背けた。何だか腕がヒリヒリする、しまった、日焼け止めを顔以外塗ってない。やっちまった。今年も美白作戦は中止となった。
「あちーな、ほら、コーラで良かった?」
「お、きた」
「は?来いっていったじゃん」
「コーラ温いんだけど」
「夏は外でこのコーラを楽しむんだよ、いらないなら僕が飲む」
「いただきます」
七分丈のパンツに白のポロシャツ、それにビーサンのいかにも夏の男の子って感じだった、やはり前髪で目を隠していた。
会って早々に彼女の事を問い詰めた。
知りたかった。始めは渋っていたが ロス人に不信感や虚偽は正当じゃない、そんなもんか、ロス人とは。そんなもの負の遺産だなどと言ってみせると次第に口を開き始めた。
「名前はしゅり、大学生だよ。僕のライブで知り合った。夜はキャバ嬢で働いている。性格最悪 、まさに悪魔だよ」
「待って、大学生?!ライブ?!すごいじゃん!どういう事?」
「バンド組んでんだよ、中学からいろんな奴らと組んでて今のクラスにもバンドのメンバーがいる、まあ今は組んでないけどね」
「何で?」
「いろいろあってさ、なんか話しが合わなくなったって言うか、パンク飽きたし。うーん、とにかくバンドはやめた、他にいろいろ関係して今は一人ぼっちになっちゃったって感じかな。
前なんてさ、机に"GOODBYE"って書いてあったよ、なかなかこたえた」
「で?彼女となかいいの?昨日は?何してたの?」
「何だよ!教えて君じゃないか!どっちが彼女かわかんないよ」
「いいから、で、どうなの?」
「昨日はクラブに行った、で、途中で帰って来た。で、只今着信百二件」
「彼女とどうなの?」
「仮面カップルだよ、常に命令口調。
我が儘だし金があるし美貌は長けてるから周りを見下す、魔女の生き残りで間違い無さそうだよ。あいつは恐らく何人も男がいる、まあ多分だけどね。
昨日もクラブハウスに到着するとすぐタトゥーだらけの兄さんと前の方に踊りにいってた」
「わかんない、なんで一緒にいるわけ?」
「契約だよ」
「契約?!何それ?まさか本当に魔女なの?」
「魔女なわけないだろ。あのライブの日、打ち上げで初めて彼女と話したんだ。メンバーや客や他のバンド含めて、総勢四十人近くいたかな、で、騒ぎ過ぎてヤバそうな他の客にドラムのきりおって奴が絡んだんだ、そしたらもう、滅茶苦茶」
「・・・どうなったの?」
「ヤバそうな奴らがぶちぎれて仲間呼んだんだ、店ぶっ壊してドラムのやつボコボコでさ」
そおいえばクラスの女子が何組の誰々が包帯グルグルだとか言ってたのを思い出した。
「そいつら帰ったけど店の親父が全て弁償しろって言うんだよ、百万」
「百万!?」
「うん、そのときしゅりがこう言ったんだ。"私がここをとりあえず収めてあげる、あのチンピラまたあなた達を見たら同じ目に合すよ。そうならないように話もつけてきてあげる、その代わり、、、私の彼氏になってよ"って訳よだから中身のない変な関係だよ」
「なにそれ、でもつき合ってるんだよね?手とか繋いだりもするの?その
、それ以上の事とかも、ねぇ?聞いてる?」
「さぁ、ま、もういいじゃないか。ほら、"ロス人ノート"持ってきたよ、何か書きなよ」
全然よくない、思ったよりなかなか厄介な状況だ。よく理解できないし、信じられない。でも嘘ではなさそうだ。
だけどもう話してくれそうにないのでこの話はやめにした、また問いただせばいい。
しかし、どうも気になる、形だけならばカップルらしい事もしてるのだろうか。
気がつけば十八時。お腹がすいてきた。
「ねぇ、お腹すいたよ」
「だね、じゃあ帰るか」
「うーん、なんか食べようよ」
「いや、帰ろう、今日は眠いんだ、
じゃあね」
「つまんないよ」
「つまんない?そうだよ、日常はつまんないもんだよ」
「それでいいの?」
「よくないよ、だから工夫してるんじゃないか」
「でも物足りない、そうでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
「彼女、電話いいの?」
「あいつの話はやめよう」
「つまんないのか、何かスパイスみたいなのがあればいいね」
「そう、刺激が足りないよ」
自転車にまたがり、煙草に火をつけた、煙を吐き出し彼の去る背中を眺めた。