(パイロットフィルムの不二子はどんな人物か?)
前項では、パイロットフィルムのルパンと五ェ門について述べた。まとめると次のようになる。
パイロットフィルムのルパン
・怪盗ルパンの孫という由緒正しき悪漢
・命を狙い、狙われること(=殺しの真剣勝負)に喜びを感じる
・盗みも「狙う」ことの一つ(盗みの真剣勝負、不可能への挑戦)
パイロットフィルムの五ェ門
・大泥棒・石川五右衛門の十三代目という由緒正しき悪漢(十三代目はアニメ独自の設定)
・ルパンに「殺しの真剣勝負」を挑む
・ルパンに狙われる喜びを与え、狙う喜びを共有する「同類」
演出の大隅正秋氏は「ルパンは育ちの良い男だ」という設定に強くこだわったという。パイロットフィルムでのルパンと五ェ門は野卑な犯罪者ではなく、盗みや殺しの真剣勝負のための美的感性にこだわった、品格ある悪漢として描かれているのだ。
これは、原作「サスペンス・ゾーン」での、盗みや殺しの真剣勝負のために儀礼的な「予告状」や「挑戦状」を送るルパンと古郎志の人物設定を忠実に反映したキャラクター解釈だと推測される。
さて、パイロットフィルムでは、不二子・銭形・明智もルパンを狙う人物として登場する。彼らはどのようにルパンを狙うのだろうか?
本項ではパイロットフィルムの不二子について考察する。
(毒を盛る、ナイフを投げる……笑顔で殺伐としたやり取りをするルパンと不二子)
パイロットフィルムの不二子の描写は次の通りだ。
酒に毒を盛られたルパンは犯人について次のように推測する。
ルパン 「だがそんなことをやりそうな奴は見当がつくぜ」
次元 「ほう…… 誰だ」
ルパン 「あいつさ!」
(筆者注.投げナイフでカーテンを裂くと、ナイフをトランプで受け止めた不二子がいる)
不二子 「さすがね、ルパン。 でも私じゃないわ」
(引用元:「パイロットフィルム シネマスコープ版」より 『劇場版 ルパン三世 DVD LIMITED BOX』収録「ルパン三世シークレットファイル」、東宝、2003年)
不二子は否定しているが、ルパンは不二子が自分を毒殺する可能性のある女と考えているわけだ。さらに、キャラクター紹介映像では、不二子は実際にライフルでルパンを狙撃している。
一方、アジトを警察に包囲された時、不二子は太ももに忍ばせた銃で次元と連携し、警官と戦う。最後にはルパンに助けられ、次元とともにアジトを脱出する。
以上のように、パイロットフィルムでの不二子は、ルパンを狙う敵、かつルパンと協力し合う味方だ。
15項で延べたとおり、このような不二子の人物像は、原作の単行本に記載された、「味方にもなるが どちらかといえばルパンのテキとなることが多い」という人物紹介を踏まえたものだろう。
それにしても、毒を盛ったり、ナイフを投げたりと、ルパンと不二子はニコニコ笑って殺伐としたやり取りをしており、常人にはおよそ理解しがたい関係だ。
(ルパンとの2つの共通点……「狙い狙われることを喜ぶ」「敵を欺く」)
いったい、パイロットフィルムの不二子は、味方でありながらなぜルパンを狙うのか?そしてルパンと不二子はなぜ笑顔で殺伐としたやり取りができるのか?
1.命を狙い、狙われる極限状況に好んで身を置く
2.敵を欺く
(共通点1.命を狙い、狙われる不二子……ルパンと同じ生き方)
不二子の紹介ナレーションと紹介映像を追っていこう。
峰不二子。どこからともなく現れて、どこともなく消える、謎の女よ…
(引用元:「パイロットフィルム シネマスコープ版」より 『劇場版 ルパン三世 DVD LIMITED BOX』収録「ルパン三世シークレットファイル」、東宝、2003年)
不二子は人の命を狙う人間だ。
映像の不二子は銃を携えたままミニのワンピース姿で障壁を飛び越え、暗闇をバイクで走り、にっこり微笑みながら英語の雑誌越しに銃を発砲する。
レースの天蓋の向こうで半裸で寝そべり、艶然と微笑む不二子。だが、次の場面の不二子は男の投げナイフで追い詰められたり、鎖で拘束されたまま服を引き裂かれたりと、危険な目に遭う。
さらに、裸でベッドで寝ている不二子は、シャンデリアから降り立ったルパンに襲われる。これは原作の「サイケ馬鹿」(1968年5月16日号、5巻62話)の一場面を再現したものだ。結局ルパンの顔に足跡ができるほど蹴りつけ、不二子はルパンを撃退する。
このように、不二子は人を狙ったり人から狙われたりの危険な日々を送っている。狙うときの不二子は楽しそうな微笑みを浮かべ、危険を招くと承知で敵を誘惑する。
この生き方は、命を狙い、狙われることを楽しむルパンの生き方とそっくりである。
(危険な運転という「冒険」が好き……「バイクの不二子」、「改造ベンツのルパン」)
不二子の紹介映像の中でも印象的なのは、不二子が夕日の荒野をバイクで走る場面だ。
ノーヘルメットに黒いライダースーツの不二子は、夕日の中、何もない荒れ果てた道をただバイクでひた走る。そこには札束も宝石も何もない。そこには、豪華な服を着たり、激しくゴーゴーを踊ったりする享楽的な不二子とはまるで違った、哀愁と孤独が漂っている。
不二子は壊れた橋からバイクでジャンプし、ルパンのいるバスルームに突っ込む。まさに常軌を逸した乱暴な運転だ。
さて、このバイクで疾走する不二子というイメージも、ルパンに共通するものがある。
オープンカーやバイクは体がむき出しの分、危険度の高い乗り物だ。一歩間違えば無惨な死はまぬかれない。
不二子を紹介するナレーションに「アバンチュール」(=冒険)という文言が出てくる。バイクの危険運転に象徴されるように、不二子もルパンと同じく一瞬の極限状況に身を置くことを好んでいるのだ。


(共通点2.人を欺く……「色香の不二子」と「トリックのルパン」)
また、不二子は敵を欺く人間だと明言されている。ナレーションを見てみよう。
シスコルックから、パリ・モードまで、華麗なるアバンチュールを彩る、峰ルックのアラカルト。
敵を欺く女の装い。しかし、忍び寄る男の影。
峰不二子は女である。
(引用元:「パイロットフィルム シネマスコープ版」より 『劇場版 ルパン三世 DVD LIMITED BOX』収録「ルパン三世シークレットファイル」、東宝、2003年)
紹介映像の中で、不二子はベッドに横たわり、半裸で流し目を送っている。
決して恋愛や情事そのものを欲しているのではなく、さらに言えば情事と引き換えに財物を恵んでもらうのでもない。ナレーションに従えば、不二子が色香を放つのは、あくまで相手を欺くための手段に過ぎないのだ。
さて、方向性こそ違え、「敵を欺く」という手段を常とすることはこれまたルパンと共通している。
パイロットフィルムのルパンは、五ェ門に替え玉を攻撃させ、明智に変装することで銭形から逃亡を果たす。ルパンは変装などのトリックで敵を欺くのが得意なのだ。
なお、ルパンが変装で敵を欺く描写は原作に頻出する。当ブログで紹介した原作第1話(「ルパン三世颯爽登場」)でもルパンは変装して屋敷に潜入しているし、たびたび取り上げてきた「サスペンス・ゾーン」(原作1巻5話)でもルパンは男爵先生に変装して敵の見張りを欺く。
(不二子は、ルパンに「欺きの真剣勝負」を挑む「同類」ではないか?)
このように、パイロットフィルムの不二子は、その悪女としての生き方にルパンと共通するものが二つ見いだせる。
第一に、狙い、狙われることを喜ぶ点。不二子が本当に望むものは金品ではない。バイクで荒野を疾走する不二子は、ルパン同様アバンチュール=死と隣り合わせの冒険をこよなく愛しているのだ。
第二に、敵を欺く点。不二子はが美貌と色気で敵を誘惑し、騙す。欺きという手段を得意とするのは、変装やトリックを多用するルパンと同じである。
さて、前項では、パイロットフィルムの五ェ門とルパンが「殺しの真剣勝負」をする「同類」だと述べた。
これと同じことが不二子とルパンに言えるのではないか。つまりルパンと不二子は「欺きの真剣勝負」をする「同類」というわけだ。
仮に「欺きの真剣勝負」を前提とすれば、「酒に毒が盛られた」場面のルパンと不二子の笑顔のやり取りもつじつまが合う。
(今回は不二子の仕業ではなさそうだが)「ルパンの酒に毒を盛る」という行為は、不二子にとって狙う喜びであり、ルパンにとっては狙われる喜びだ。さらに、ルパンは不二子の欺きを見破る真剣勝負を楽しみ、ルパン自身も不二子を狙い、襲うというわけである。
このように、ルパンと不二子は、狙い狙われる極限状況や、欺き合いを楽しむライバルだ。だからこそ、敵であり仲間でもあるという関係が成り立つと考えられる。
アニメ第一シリーズ第1話「ルパンは燃えているか…?!」には、「裏切りは女のアクセサリー」という不二子に向けたルパンの有名なセリフがある。不二子はルパンを女の色香で幻惑しながら、裏切りの勝負を仕掛ける。それをルパンは面白いと感じ、彼女を一層魅力的に思う=「アクセサリー」という理屈なのだろう。
(「峰ルック」と「ルパンズファッション」……企画書ではルパンと同格のファッションリーダーだった不二子)
女ルパンとしての峰不二子について少し補足しておこう。
パイロットフィルムの不二子は「峰ルック」と称した豪華な衣装をまとう。これはルパンがファッションショーをして「ルパンズファッション」と称していたのとまったく同じだ。
パイロットフィルムではセクシーなドレスやビキニ、黒いライダースーツなど豪華な衣装をまとった不二子がずらりと並ぶ。まるで7体の着せ替え用ペーパードールだ。
この映像が何を意図していたかというと、実は、企画段階のルパンと不二子は若者たちのファッションリーダーとなるはずだったというのだ。
企画書の一部を引用しよう。
3.ルパンファッションと不二子ファッションのブーム化の可能性
ルパンがカルダンからモッズルックまで巧みに着こなすサイケなイカス野郎だとすれば、紅一点の峰不二子はディオールからフーテンまで最新モードを着こなすカワイコちゃん。したがって、ルパンと不二子の変幻自在のモードは、まるでファッション・ショーのよう。
ヤングや子どもたちは、グループサウンズのファッションだけでなく、ルパンファッションにも共感と憧憬をフィットさせていく。
そのために、前衛的ファッションデザイナーの協力を求めて、ルパンファッションをブーム化させていく十分の可能性をもっているのである。
(引用元:「〈ルパン三世〉 企画書の世界」、 『東京ムービー・アニメ大図鑑』P201、協立出版、1986年)
このような記述を見ると、パイロットフィルムの不二子が、文字通りルパンと同格の「女ルパン」として扱われていることがわかるだろう。
(「女ルパン・峰不二子」……この人物像は、原作のどこから出たのか?)
さて、演出担当の大隅氏は「ルパンはモンキー・パンチしかない」と原作尊重の姿勢をとってきている。
では、欺きを得意とする女ルパン・峰不二子は原作からどのように導き出されたのだろうか。それを説明すると、少し複雑な話になる。
というのも、初期原作の「峰不二子」は固定した人物ではなく、毎回ころころ変わるからである。
次項では原作初期の不二子について解説し、パイロットフィルムの不二子と原作のかかわりについてまとめたい。
(続く)
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