「いや、正しくは西岐の姫昌さまに、だな」
子牙は檻の前に座る。その金髪に沙旦はさらに語気強く浴びせる。
「姫昌? 姫昌は商王を弑さんとしたが露見し、いまはその身を獄に繋がれているはず!」
「そう噛みつくな。まるで餓狼だな。まぁ、座れ」
まだ咆えかからんとする人狼に、子牙はさも億劫に手の平を振る。尖った鼻の両の穴から荒く息を吐きだしつつ、不承不承沙旦はどっかと尻を落とす。
「まぁ、よく聞け」
子牙は山を下りてからいままでの経緯を話す。
沙旦たち羌族が危惧しているのは、西岐が商王に屈従。その証として彼らを掃討するのではないか、ということであった。
繰り返し、姫昌は王に従属してもいなければ、おまえたちを討伐する意思もない、と子牙は伝える。おまえほどに聡い漢が、なにゆえ妄動したか?と問われ、若き族長は、ばつが悪そうに視線を落とす。
「沙旦よ、一体誰にけしかけられた」
「けしかけられた……だと?」
「そうだ。西岐がおまえたちを掃滅しようとしていると誰が説いたか。どこのどいつがいまなら西岐をその手におさめられると囁いたか」