太公望 52 姫発の陣営よりやや離れたところにある丘陵に、ひとりの男が立っていた。 みすぼらしい旅装の者。痛いほど日に焼け、埃に塗れている。しかし、その顔は端正を通り越して秀麗、女人のような艶然とした気を漂わせていた。 そして、その美貌の中心で輝く双眸は氷塊をはめ込んだかのように冷たく、妖しい輝きを放っている。 暫時、遠望していた男は、握っていた傍らの馬の手綱を引き寄せた。その身を鞍上に移す。 男は微笑した。 複数の感情を隠すための嫣然。 彼は駒首をまわし、鐙を蹴った。 男の名は、悪来という。