子宮内膜症について

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子宮内膜症について書いておこうと思います。

【1】どういう病気?

「子宮内膜症」という病名を聞いたことがある人は多いと思います。しかし何だかよく分からない病気だと思いませんか? 「子宮内膜」の病気だと勘違いしている人もいるかもしれません。しかし基本的には子宮内膜症は「子宮」にできる(発生する)病気ではないし(正確には「子宮腺筋症」という名の子宮内膜症は子宮にできますが)「子宮内膜」にできる病気でもありません。どこにできる病気かというと、一番多いのは「卵巣」です。卵巣とともに多いのが「腹膜」です(内臓の表面やお腹の内側はむき出しの状態ではなく、つるつるの腹膜という膜で覆われているのです。だから内臓同士がくっつかないのです)。

 卵巣や腹膜に「できる」といいましたが、何が「できる」のかと言いますと「子宮内膜」ができるのです。。。卵巣に子宮内膜ができる? じゃあそれは子宮内膜ではなく卵巣内膜なのではないか? 違います。卵巣に内膜はありません。子宮内膜です。腹膜にも子宮内膜ができる、腸にできるときもありますし、珍しい例では肺にできたりします。私は、なんと、手に子宮内膜症ができた患者さんを治療したことがあります。

 子宮内膜の特徴とは何だと思いますか? 一番の特徴は「月経の時に出血する」ということです。もし肺に子宮内膜症ができたらどうなると思いますか? そうです。月経のたびに喀血(咳に血が混じること)するのです(何だかおそろしいですよね)。手に内膜症ができた患者さんは、月経の時に血豆が大きくなる、という症状でした(びっくり!)。まあ、こういう例はとても珍しいのですが。

 そんな珍しい例ではなく、よくある卵巣の子宮内膜症ではどうなるかというと、もうご想像されている通り、月経の時に卵巣内で出血します。でもその血の行き場がなくてそこに溜まります。毎月少しずつ溜まっていってやがて見える大きさにまで膨らんでいきます。それが「チョコレート嚢腫」です。聞かれたことのある名前でしょう? 冗談ではなく、チョコレートが入っているのではないですよ(バレンタインのプレゼントにするのは禁物です)。その袋の中には古い血液(月経血)が入っているのです。嚢腫を取り出して見ると、中身の血液は古くてドロドロになって溶かしたチョコレートみたいになっている。だからそういう名前が付いているのです。

 本来子宮内膜があるべきところで月経の時に出血するのは、それは本来あるべき姿なので問題ありません。ところが卵巣や腹膜や子宮の筋肉の中(=子宮腺筋症)など、本来あるべきではないところで月経の時に出血するとどうなるか。炎症が起きます。炎症とはその部分が痛くなったり熱を帯びたりすることです(生理痛の原因になります)。炎症が起きると傷ができます。傷が治るときに余分な膜が作られて、滑らかだった膜同士がくっつきます。これを「癒着」と言います。

 卵巣という臓器はもともと子宮などにくっついていなくてフリーな状態です。結構場所が変わるのです。卵管もそうです。それが妊娠には都合が良いのです。卵巣から卵子が放出されるときにすぐ近くに卵管の入り口がある方がいいでしょう? 卵管の中で卵子と精子が出会って受精するのですから。それなのに、卵巣の表面が内膜症で硬くなってうまく排卵できなくなったり、卵巣や卵管が離れた場所の腹膜や子宮や他の臓器と癒着したら妊娠しにくくなるのは容易に理解できると思います。

 まとめると次のような症状になります。
(1)月経の時に炎症が起きるので痛みが強くなる。→月経痛
(2)骨盤の中が癒着する。→月経痛、性交痛、排便痛、不妊症
(3)上手に排卵しにくくなる。→不妊症
(4)内膜症から出る炎症物質は受精や着床を妨げる。→不妊症

 また、気をつけなくてはならないのは、チョコレート嚢腫も大きくなりすぎると将来卵巣がんに変わる可能性がゼロではないということです。直径が5cm以下ならまず大丈夫ですが、10cm以上のものは手術で取ってしまう必要がありますし、5cmから10cmのものも、経過次第では手術が必要です。

 しかし小さいチョコレート嚢腫は手術しない方がよいかもしれません。なぜなら嚢腫を切り取るということは、一部卵巣を切り取ることと同じ。手術後に卵巣に残っている卵子の数が減ってしまい、不妊症が重くなる場合があるからです。

【2】原因は?

 原因は完全には分かっていませんが、月経血の一部が体の外ではなく、卵管を通って体の中に逆流してその中に含まれている子宮内膜の細胞が卵巣や腹膜に着床するのだろうと考えられています。(しかしもっと遠くの臓器、先ほど例に出したものなどは、その場所で間違って子宮内膜が発生してしまったものではないかとも考えられています)

 そのため月経の回数が多い人ほどなりやすいというのは自然と理解できますね。ではどういう人が月経の回数が多いでしょう。生理周期の短い人? いえいえもっと決定的なのは、妊娠する年齢が遅い人です。妊娠すると1年ぐらいは月経が来ないからです。もし子宮内膜症になっていても妊娠するとその間に月経が無いので子宮内膜症が治ってしまうことも多いのです。

 妊娠が遅いと→子宮内膜症になりやすい→子宮内膜症は不妊症の原因になる→妊娠しにくくなる→さらに妊娠が遅くなり→子宮内膜症が悪化して→不妊症が悪化する。という悪循環におちいってしまう場合もあります。こうなるとやっかいです。どこかでこの悪循環を断ち切らないと。断ち切るには妊娠するのが一番なんですが。。。

 もっとも、月経血の逆流ってそんなに珍しいことではなくて、結構多くの人に起こっている現象のようです。しかし子宮内膜症になるのはその一部の人。なる人とならない人の違いは何か? おそらく体質(という名の複雑な免疫機能)ではないかと思います。

【3】では結局のところどうすればよいの?

 子宮内膜症かどうかは熟練した医師が診ればだいたい分かります。しかしごく初期の内膜症の場合は診断がつきません。超音波検査などの通常の検査では内膜症と診断できないけれど、症状などから疑わしい場合に診断ができる方法は一つしかありません。それが腹腔鏡です。腹腔鏡は検査ですが、通常は入院して、麻酔して、お腹を少し切って、お腹の中に胃カメラみたいな内視鏡を入れて観察する「手術」でもあります。

 しかし子宮内膜症が疑わしい人はすべて腹腔鏡を受けるべきかというとそうではありません。やはりケースバイケースで、どうしても受けた方がよい人だけが受けるべきでしょう。少しだけとは言え、やはりお腹を切る手術なのですから安易にできるものではありません。もちろん、必要だと判断した場合は腹腔鏡手術のできる病院に紹介させて頂きます。

 子宮内膜症専用の薬もあります。注射の薬や飲み薬がよく使われます。薬が効く原理としては、簡単に言えば妊娠中や閉経後に良くなるのと同じです。妊娠中も閉経後も月経がなくなるのは同じこと。その間に子宮内膜症は衰退していくのです。ですから内膜症の薬は生理を止めます(少しの不正出血はときどきあります)。しかし同時に排卵も止めます。ですから内膜症の薬を使っている間は妊娠できません。よって、不妊症治療と内膜症治療を同時に行うことはできません。これが悩ましいところなんです。

 ピルもやや効果があります。ピルはもともと避妊目的の薬でしたが、最近は進歩して低容量ピルが発明されたので、副作用もほとんどなく、また、月経痛や子宮内膜症に対して保険で処方できるピルもできました。月経前症候群(月経前のさまざまな不快な症状)を抑えたり、お肌の調子が良くなったりもします(欧米ではニキビ治療にも使われています)。ピルも排卵を抑えて、月経を軽くすることで、内膜症の進行を止めます。内膜症専用の薬と異なり、非常に軽い薬ですので、中止すればたちどころに排卵が回復し、すぐに妊娠を目指すこともできます。しかしピルも使用中は当然ながら妊娠することは不可能です。また内膜症専用の薬のように、内膜症を集中的にやっつけるほどの効果はありません。進行を止めたり遅らせたりする程度です。

 妊娠すれば改善するけれど、内膜症のためになかなか妊娠できない。内膜症を治療したいけど治療中は妊娠できない。そもそも内膜症よりも不妊症の方が問題だ。そのような場合、ジレンマをどうすればよいのか。ざっくり言えば、思い切って不妊治療を中断して、数ヶ月間手術や薬などの内膜症の治療に専念し、その後で不妊治療を再開するか、あるいは逆に、妊娠すれば良くなるわけだし、内膜症はまだそれほど深刻な状態ではないので、内膜症の方はそっとしておいて、不妊治療の方をステップアップするか、そのどちらかしかありません。どちらの道に進むかは、医師とご夫婦の相談で決めていくしかないのです。