藤沢周平の短編時代小説3作を基に山田洋次監督が映画化。山田監督はこれまで、「男はつらいよ」シリーズなど数多くの作品を手掛けてきたが、本格時代劇を扱うのは本作が初めて。幕末に生きた名もない下級武士とその家族の姿を、徹底したリアリズムの中に叙情溢れるタッチで描く。
井口清兵衛は幕末の庄内、海坂藩の平侍。妻を病気で亡くし、二人の娘とボケの進む老母の3人を養っている。生活は苦しく、下城の太鼓が鳴ると付き合いは断ってすぐ帰宅し、家事と内職に励む毎日。そんな清兵衛を同僚たちは“たそがれ清兵衛”と陰で呼んでいた。そんなある日、清兵衛は数少ない親友・飯沼倫之丞から、清兵衛とも幼なじみの妹・朋江が、嫁いだばかりで離縁したことを聞かされる。夫の酒乱が過ぎ見かねた倫之丞が離縁させたのだというのだ。数日後、その朋江がひょっこり清兵衛の家に姿をみせた。
山田監督が自身初となる本格時代劇を手掛けるにあたって取り上げたのは、これほど人々に愛されながら(題材が地味なためか)これまで映画化されることのなかった藤沢周平作品だった。一貫して庶民の心をフィルムに焼き付けてきた山田監督らしいと思うと同時に、従来の時代劇の文法に囚われることなく、新たなアプローチで挑もうとの並々ならぬ意気込みを感じさせる。そして、それが見事に結実した秀作。つつましい中にも幸せを感じ凛として生きる主人公の姿や、もどかしい男女の恋のすれ違いといったものを日常の細やかな描写の中で丹念に描く一方、クライマックスの果たし合いでは、緊張感と迫力みなぎる剣戟シーン(血の滴る音が異様なほどリアルで印象深い)を披露し、“藤沢ワールド”の映像化に見事に成功している。盛り込まれたエピソード同士の繋がりに乏しく物語のダイナミズムに欠ける、あるいは岸恵子のナレーションに対する違和感(わずか5歳ほどの少女の視点で語られる不自然さ)など、多少の物足りなさも残るが、今後も山田監督にはぜひとも2作目3作目と時代劇を手掛けてほしいと思わずにはいられない一作となった。
- 前ページ
- 次ページ
孤独な殺し屋・レオンと、家族を惨殺された少女・マチルダの出逢いと別れを描いた「レオン」に、22分の未公開シーンを加えた完全版。ふたりが心を通わせていく過程が、さらに緻密に描かれ、切なさがより胸を締めつける。完全版の名は伊達ではなく、よくある只長いだけの作品にはなっていない。冗漫な印象さえあった「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」の(邦題では完全版と銘打たれているものの)“Version Longue”、と対するこちらの“Integral Version”の違いだ。追加され たシーンでは「ニキータ」のジャン=ユーグ・オングラードがカメオ出演。’94年版公開時にポスター等で使われていた、爆発の炎からレオンがマチルダを護るシーンも登場する。ベッソン監督は、数年後にポートマン主演で“マチルダ”を撮ると言っている。実現を切に望むところだ。
大晦日の夜、パーティで賑わう豪華客船ポセイドン号を海底地震によって突然発生した大津波が襲った。一瞬の内に船は転覆。生 き延びた人々は生存を賭けて、天地が逆転した船内からの脱出に挑む。転覆時のスペクタクルはもちろん、オールスター・キャストによる人間ドラマも見応え充分で、アメリカン・ニュー・シネマ全盛の公開当時、ハリウッド・エンタテインメントの真髄を見せた。70年代半ばに起きたパニック映画(ディザスター・ムービー)ブームの先駆けでもある。