病気になって

 それがなおって、
 なおって息災を喜ぶうちに
 また病気になって、
 ともかくも
 一切病気なしの人生というものは、
 なかなか望みえない。
 軽重のちがいはあれ、
 人はその一生に何回か
 病の床に臥すのである。

 五回の人もあろう。 
 十回の人もあろう。
 あるいは二十回、三十回の人も
 あるかもしれない。
 親の心配に包まれた幼い時の病から、
 不安と焦燥に悶々とする
 明け暮れに至るまで、
 人はいくたびか
 病の峠を越えてゆく。

 だがしかし、
 人間にとって所詮死は一回。
 あとにも先にも一回きり。
 とすれば、
 何回病気をしようとも、
 死につながる病というのも一回きり。
 あとの何回かは、
 これもまた
 人生の一つの試練と観じられようか。

 いつの時の病が死につながるのか、
 それは寿命にまかすとして、
 こんどの病もまた人生の
 一つの試練なりと観ずれば、
 そこにまたおのずから心もひらけ、
 医薬の効果も、
 さらにこれが生かされて、
 回復への道も早まるだろう。

 病を味わう心を養いたいものである。
 そして病を大事に大切に養いたいのである。