みなさんこんにちは。参議院議員の森まさこです。

 

 昨年の衆議院選挙及び総裁選から「分配なくして成長なし」のフレーズで広く世論の注目を集め、私のブログでも昨年取り上げた「新しい資本主義」ですが、この「新しい資本主義」実現を目指す具体的政策といえば、みなさまは何を想起されるでしょうか。

 

 以前より私が岸田総理に提言を行っており、総理も所信表明で見直すべきとの見解を示された四半期開示制度を挙げる方も少なくないことと存じます。

 昨年のブログ(https://ameblo.jp/morimasako-iwaki/entry-12710479839.html)でも申し上げました通り、「『新しい日本型資本主義』実現を目指す上で、確かに四半期開示廃止は外すことのできない論点」と言えます。

 

 しかしながら、四半期開示制度や自己株買いの見直しといったこれらの政策案は、現行の新自由主義的政策がもたらした株主偏重的な現状の更なる悪化を阻止するに止まる消極政策であるという限界を有しています。実体経済における事業価値向上の実現のためには、付加価値の適正分配制度を軸とした積極政策が不可欠であると考えております。

 

 そこで本日は、「新しい資本主義」を基盤とする積極政策としての具体案の1つとして、「DS経営モデル」の概形をみなさまにご紹介いたします。「DS経営モデル」とは、付加価値分配計算書(DS : Distribution Statement)を活用した新しい経営の枠組みを指します。DSは現在社会に広く浸透している損益計算書の項目の組換えで作成が可能となっており、企業は手軽に導入することが可能です。本モデルは元オックスフォード大学教授で現在は早稲田大学教授でいらっしゃるスズキトモ先生が提唱しておられる経営方針であり、私も定期的に勉強会でお話を伺っております。

 上の写真は、昨年11月に行われたスズキトモ先生による新しい資本主義の勉強会の様子です。この勉強会には新しい資本主義実現会議の委員である柳川範之先生も同席され、基本的なアイデアや可能性について強く賛同してくださいました。今後もこうしたDS経営の推進にお力添え頂けるものと思います。

 みなさまから好評を頂いている「バタバタ日記」の女性秘書官も同席しました。

 

 DS経営をご紹介するに当たり、みなさまにはDS経営は従来のPL(損益計算書)経営と異なり、当期純利益の最大化を目的とするものではないことをまずご留意頂きたく存じます。当期純利益は、あくまで「株主に帰属する付加価値」という株主偏重主義な視点に依るところが大きいためです。「新しい資本主義」に要求されるのは付加価値全体の持続的な成長であり、この実現のためには適正分配制度が株主、経営者、従業員の動機付けとして十分に機能する必要があります。そのためのDS(付加価値分配計算書)であると言えましょう。

 

 DSにおいてはまず、株主資本に対する還元率(DoE)を合意配当率として事前に設定を行います。その上で、DoEに則って算出された金額が最終的な当期純利益と一致するように経営を企画します。この際、当期純利益(=事前設定された合意配当率により算出された金額)は全額株主へ配当予定であると想定します。そして企業がこの当期純利益(=配当額)以上の付加価値を産出したなら、その超過分は配当の原資とはせず、分配可能余剰額として役員及び従業員に分配するのです。

 

 この様な経営上の動機付け制度を作成することにより、役員や従業員の遣り甲斐や士気、動機の向上が予想されます。また昨今の機能低下が著しい投資家による外からのモニタリングやガバナンスに代わり、企業内部(従業員)からのモニタリングやガバナンスを喚起し、企業と経済の自律的かつ持続可能な成長の促進が可能であると期待されます。これこそが成熟経済社会に突入した日本による「新しい資本主義」が持つ、最大の可能性であろうと考えております。

 

 下の図は、DS経営モデルの原型イメージです。役員や従業員、事業そのものに対する分配を増やすと共に、それらが高い士気・モニタリング・ガバナンス機能を誘発することで企業の自律的で持続可能な成長を支援するよう設計されています。

(スズキトモ先生との勉強会で使用された資料より)

 

 DSモデルは企業の実質的な経営意識や行動の変化を主目的とし、これに対して一定の努力を要求するものではありますが、そのために企業が新たに外部へ公正価値評価や監査を委託するような煩雑性はありません。内部報酬規程の改定や関係者間での交渉等、相互理解と協力関係の構築は必要であろうと予想されますが、これらは企業の経営改善に直結する行動でありましょう。

 

 また、仮にDS経営がうまく機能しない場合においても、話は極めて単純です。DS部分を削除し、現行の財務諸表のみの形態に戻すだけで事足ります。この様に容易に旧に復すことが可能である点も、DS経営モデルの大きな魅力であると言えます。

 

 日本が一日でも早く現行の欧米型資本主義から脱却し、成熟経済社会に適した「新しい資本主義」への移行が実現するよう今後とも全力を尽くす所存です。

 また、女性の賃金を上げて男女の賃金格差を解消することが、女性の経済自力を促し日本経済を強く持続可能にする鍵です。次回は、新しい資本主義と女性活躍について述べます。