友人が役員をしている会社の社長様に久々にお会いした際、うれしい一言をいただいた。
「あれからアダンのファンになって、しょっちゅう使わせてもらってます。」
大阪にお住まいの社長様なので、上京するたびに通ってくれている模様。最初にお会いした時、「月に2回のペースで上京、数日間滞在しその間は三食すべて外食」と聞いていたので、この店を紹介させていただいたのだ。
結婚前はアダンから歩いて数分のところに住んでいて、それはそれはよくこの店に通ったものだ。もちろん食に対するクオリティが高いのが常連たる一番の理由だが、飲み歩き・食べ歩きの多かった私にとって、少し胃袋を休めながら飲める「実家」「ふるさと」のような存在感は相当魅力だった。飽食の極みをいくここ東京のおいしいものというのは、実際食べまくっていると相当体に負担も大きい。ましてや、たまに上京する社長様となれば、夕食はビジネス関連の会食がメインとなるであろうから、ぜひアダンで体を癒して欲しいという願いからご紹介した次第だった。
そういうわけで、アダンをそれほど気に入っていただけたことは、食を通じて相互の理解を深めることができたという点からも非常に嬉しいお言葉だった。
前置きはこのくらいにして、アダンを紹介しよう。
アダンは三田5丁目の交差点(魚籃坂下を少し田町方面に向かったあたり)の路地を古川橋のほうに入ったところにポツンとある。ジャンル分けが非常に難しい店で、しいて言えば「沖縄料理を含む無国籍居酒屋」とでも呼ぼうかという感じ。(個人的には沖縄料理で片付けられるジャンルではない!という思いが強い)
主人のいっさくさんの世界観がてんこ盛りなこの店は、まさに温故知新という言葉が当てはまる。古い蔵を改造した店内は、手前が田舎の土間を連想させるようなキッチンスペース、奥がカウンターバーとテーブルが数卓、急階段を上ると大人数用のテーブルと着座スペースからなる。(このほか、となりに離れと呼ばれるパーティースペースもあり)こんな不便な立地にもかかわらず、連日大賑わいの東京でも類をみない不思議な空間となっている。
ワインの世界でよく使われる言葉 「天・地・人」 天候・土壌・そして人間の情熱がすべて重なり合った時にこそ最高のワインができるという意味だが、ここアダンにもそれに似た理屈が当てはまる。
・料理がすばらしい
いっさくさんがアダンというコンセプトで店を作ろうというきっかけになった人・・・ 厨房の総指揮者 せっちゃん
彼女はいわゆる「素人の中のプロ!」だ。せっちゃんの作る料理は、料理自慢の母と料理人(プロ)のちょうど中間とでも言えばいいだろうか。京懐石のように素材の季節感を大事にし、料理研究家のように料理のジャンルも多彩。それなのに、せっちゃんのメニューにはなんとも言えぬ「懐かしさ」「母の持つあたたかさ」がある。この人の子供はどれほどグルメなんだろう?と思ったことが何度もある。
特筆すべきメニューを一部記載する。
◆あげぶた 定番中の定番。ここのあげぶたより美味いあげぶたはない!と言い切れる。
◆いわしのおから おからにいわしの酢漬けが混ぜ込まれた一品。一度食べると病み付き。
◆ユリ根の卵とじ 季節により空豆にもなる。どんぶりの汁に浮いた卵がインパクト大。
◆茎わかめ 終わってみれば絶対頼んでいる、あげぶたの対抗馬。
◆青パパイヤのサラダ 本場東南アジアより美味い。現地の人にに教えてあげたいくらい。
◆鯛めし アダンの締めの定番。 圧倒的に鯛めし人気だが、あなご飯も相当美味い。
◆沖縄やきそば ここで食べて以降、ここでしか食べない。
◆モヒート たいぞうさんの作るモヒートは東京NO.1。 きび砂糖を使うところがいい
◆久米仙+ウコン茶チェイサー ここの料理には間違いなくこれが一番合う。
本当に書ききれないほどお勧めはある。酒の肴でいうと、胡麻和えも相当レベルが高い。
・スタッフがすばらしい
主人のいっさくさん、厨房のせっちゃん、バーのたいぞうさん、フロアのかえちゃん。ここで働くスタッフ一人ひとりがアダンの魅力をさらに引き立てている。そして、この人たちが作り出すアダンという世界観は新しく入ったスタッフにも自然と伝わっているようで、10年近く通っている私だが新人スタッフでも違和感を感じたことはない。ちなみに、どんな名店でもそこで関わる人を嫌いになると自然と足は遠のくものである。アダンのもつ人間力は半端じゃない。
・お客がすばらしい
仕事終わりに一人でアダンを覗いても、帰るころには友人と卓を囲んでいたものだ。それほど常連が多いのもここの特徴。しかし、その常連が絶えず新しい人にこの店を紹介するからどんどん新しい客が増える。またその人たちが一人で来たり仲間に紹介したりして・・・・・・アダンは決して常連ばかりが集う店というわけではなく、進化し続けているという印象。客層も面白い。食に造詣が深いであろう上流社会の一員のような人から、エッジの効いた流行の最先端をいくような人まで様々。ニューヨークのミートパッキングエリアにアダンが出店したら面白いに違いない。お客がかもし出す活気。これもアダンの立派な魅力のひとつだ。
私はアダンでは「モリモリ」と呼ばれている。結婚と同時に引越してしまってからここ3年ほどは年に数回程度しか訪問ができていないが、いつでも笑顔で迎えてくれるまさに「ふるさと」のようなアダン。この記事を読んでくれた読者のなかから、お店のスタッフに名前で呼ばれるようなお客様がひとりでも現れてくれたら、なんてことを考えながらふと笑顔になれた。
追記:
せっちゃんの味がご家庭でも作れる料理本 「アダンのごはん せっちゃんの和えもん」 を店頭で販売している。(私は発売と同時にアダンで購入し、妻へのお土産にした。妻もこの本のヘビーユーザーだ)今も売っているかはお店に確認願いたい。
アダン
東京都港区三田5-9-15
TEL: 03-5444-4507