私は浮気をした。
ケンちゃんのこと、すごく、愛していたのに。
ケンちゃんしか、考えられなかったのに。
「…もう、終わりにしよっか」
「…うん」
一回のことが、今までの日々を全て消し去っていく。
それでも、私は…
「ケンちゃん」
「…ん、」
「大すきだよ」
後悔、していない。
「…俺はもう嫌いだよ」
あんなに優しかったケンちゃんを、ここまでも変えてしまったのに。
「…知ってる」
そう言って笑うと、こんなにもケンちゃんの顔を歪ませてしまうのに。
「…じゃ、」
そう、合鍵を机に置いて
「元気で、」
そう、最後に微笑んで
私は何がしたいのだろう
私はどうしてこんなことをしたのだろう
私は幸せだったはずなのに
私はケンちゃんが好きだったはずなのに
「――っ ゆきっ」
そう、貴方の声で名前を呼んで、もらえるのに
「…ケンちゃん、」
そう、貴方の腕で、抱きしめてもらえるのに
「…ごめん、嫌いなんかじゃないのに…っ」
「…ケンちゃん、」
こんなにもケンちゃんは、優しいのに
「私、こんなにひどいこと、してるのに…」
「でも、まだ、俺…」
「私、ケンちゃんのこと、大すきだよ」
「…うん、」
「でもね、私、おかしいのかな、」
「…う、ん、」
「あの人が、憎いほど、愛おしいの」
ケンちゃんが大好きで
ケンちゃんが全てで
私の世界はそれで成り立っていたのに。
それなのに、出逢ってしまった。
狂おしいほどに、憎くて、なのに、愛おしい人に。
「…だから、さようなら」
私は、どこか、狂っている。
私の鍵類の中にケンちゃんの鍵はもうない。
もう601号室に行くこともない。
だから一回、ぺこりと
ごめんなさいと、ありがとうを込めて
大切なものを捨てる。
ケンちゃんに恋をして、私が手にいれたものは、たくさんある。
601号室の合いの鍵
ケンちゃんのにおいがついた私の服
幸せしか写っていない写真
どれも愛おしく
どれもかけがえないの無いモノで
どれも宝物
あの人に恋をして、私が手にいれたものは、何もない。
合いの鍵も、あの人のにおいがつくことも、写真も
それなのに、…
「おかえり」
ケンちゃんのマンションを出て、
当然の顔でそこに立っている愛しい顔を凝視する
「―― …っ」
たった、それだけなのに
顔を見ただけなのに
「おいで」
愛しくて、苦しくて、憎くて、また、愛しくて
堪らない。
駆けよる。
腕が回る。
あの人のコロンの香り。
あの人の温もり。
これを、手に出来るのならば――…
「…愛してる」
「…知ってる」
私は、宝物を全て捨てても、かまわない。
『 deep love 』
‛大すき’みたいに、甘くないこの感情
―――――――――――――――――
お初の短篇テーマ分けです
つくって、みちゃった…!(笑)
こんな私はテスト終わりです
初の短篇で
浮気てどーよと、私が自信が一番思っております(笑
そしてケンちゃんの可愛そうなこと可愛そうなこと
でも女に『男のロマン』がわからないように
男にも『大すきだけど、捨てる』っていう女の感覚がわからないと思ったので書いてみた
多分男の人は絶対そんな感覚変わらないんだろうな、と
私も『男のロマン』がわからないのでお互いさまだなぁと思いました(笑)
対応する世界 対応できない私 ・ 下
どれだけ走っただろう。
どれだけ泣いただろう。
こんなにも他人を気にしないで走ったのは初めてだった。
「…そんな、はず、ない」
小さなブランコに座って、呟いた。
泣いて、泣いて
辿りついた先は小さな公園だった。
もう辺りは、オレンジに染まっていた。
「…空き地に、手紙が届いて…」
空き地から返事が来る。
そんなはず…
「ないよ…」
それは、小説の中だけの世界。
それは、物語の中だけの世界。
それは、魔法の世界だけの話。
それは、……。
「…ここにいたのか」
声がした。背中から。
降る向かずとも、誰だかぐらい、分かっていた。
「…なつかしい、な」
開いているブランコに座ったのは、やっぱり宮向井さんだった。
「…ブランコ、そんなに、なつかしい、ですか…?」
きっと泣きはらした目で見たからだろう。
宮向井さんは目の色を深くした。
「…なつかしいよ、子供のころを思い出すようだ…」
「子供の、頃…」
ブランコにはいつも一人で乗っていた。
私にはやっぱり友達なんていなかった。
一人でこいで、一人で靴を飛ばして、ひとりで、笑って。
…みんな、私を嘘つきと、笑うから。
「靴でも、とばすか?」
宮向井さんは笑った。…どこか、悲しい笑顔だった。
「…私、強いですよ?」
だって私は、いつも一人で練習していたから。
いつか友達が出来て、一緒に靴飛ばしをするのを、夢みていたから。
「俺も、なかなかだぞ?」
二人して一斉にブランコをこぎ出す。
もう辺りは夜のにおいがした。
「なぁ…」
ブランコをこぎながら、宮向井さんは私に尋ねた。
「…はい?」
「子供のころ、」
ぎぃ、とブランコが鳴った。
「どんなだった?」
そんなことを、私に聞くんですね。
「…今と一緒ですよ、 いつも、一人でした」
またぎぃ、とブランコが鳴る。
「そっか…」
宮向井さんが片方の靴を踵だけ脱いだ。
「宮向井さんは…?」
私も片方の靴を踵だけ脱ぐ。
「…俺かぁ、俺は…」
宮向井さんが靴を飛ばす。
靴は綺麗に孤を描いて、かなり遠くまで飛んだ。
よし、私も…
「いじめられてた」
ぎぃ、とブランコが鳴った。
私の靴はぽて、と残念な音を立てて私の真下に落ちた。
「…俺の、勝ち」
宮向井さんは寂しそうに笑った。
「お前が、俺の初めての友達だよ」
きっと私は大きく目を見開いていたに違いない。
宮向井さんはブランコから飛び下りて、片足けんけんで靴を取りに行った。
私も、ブランコを止めた。
「俺、下の名前、『望』って言うんだ」
そう言えば宮向井さんの名前を聞くのは初めてだった。
宮向井さんが靴を履いてこっちまで戻ってきた。
そして私から少し距離を開けて、私の真正面に立った。
「 のぞむ、きもい。 お前なんか略して 『のっきー』だっ! 」
「―――」
「一番嫌いないじめっ子につけられたあだ名。 …これが俺の正体だ」
宮向井さんが静かに笑う。
悲しく、笑う。
「う、そ…」
「そしてここは、俺が子供のころ、一人でブランコをこいだ公園だ」
宮向井さんが息を吸う。
宮向井さんが息を吐く。
そして…
「ごめん、な」
宮向井さんが、私に謝る。
「で、も、ど、やって…」
私はいきなりの展開についていけないでいた。
だから言葉がうまい具合に出ない。
でも、宮向井さんは私の言いたいことが分かったようで
「今はもうないけど、あそこの空き地が昔、俺の家だったんだ」
宮向井さんが私の隣のブランコに座る。
また、ぎぃと鳴るブランコ。
現実に対応出来てないのは私だけ。
「どうして…」
出たのがこんなありきたりな言葉でごめんなさい。
「どう、して…」
それでも私はどうしてもついていけないでいたから。
受け入れれないままでいるから。
「どうして言ってくれなかったんですか…」
私は何を言おうとしているのだろう。
「…言えなかった。お前が想像する『のっきー』と、俺は違いすぎたから」
「だからって…!!」
宮向井さんに大きな声を出すのはこれで2度目だ。
私は、今私のしている行動が分からない。
「私を、笑ってたんですか…? のっきーさんの言葉で一喜一憂する私を笑ってたんですね!? だからっ…!!」
そこまで言ってやっと私は事の重大さに気付いた。
私の横には、これまでにないほど、苦しい顔をした宮向井さんがいた。
「――――っ」
耐えきれなかった。
私は気付いたら駅に向かって走り出していた。
走りながらぼんやりと思った。
神奈川について始めに感じたあの違和感。
考えないようにしていた、あの違和感。
私は宮向井さんに、『のっきーさん』が神奈川在住だなんて言ったことなかった。
なのに、私が『のっきーさん』に会いに行くと言った時、宮向井さんは躊躇わずに言った。
‛ 行くぞ、神奈川。 ’
(だから、だったんですね…)
私はホームに着いた電車に飛び乗った。
――――――――――――――――――
少し長めになりました
これが『対応する世界 対応できない私』の最後です
これからクライマックスにかけて転がっていきます、多分…!(笑
しかしあれです
宮向井 望 って、なんか語呂合わせが悪いような気がしてしょうがないです(笑
小町春代 はなかなか春らしい感じかしたんだけどなぁ…
しかし宮向井 信明 とかもなぁと思って望に のぞみでもよかったかなぁと今反省(笑
あと2話、3話で話を収められる能力が私に備わっているのかどうかわかりませんが
頑張って収めようと思います…(笑)
しかし中途半端な終わり方にしてしまった…
対応する世界 対応できない私 ・ 中
「私、やっぱり、のっきーさんに会いにいこうと思いますっ!」
「はぁあ!?」
いつもの紅茶の時間。
私はついにその言葉を切り出した。
「だって、こんなにのっきーさんからの手紙、待ったことないですもん! もしかしたら、病気とかにかかってるのかも…」
「だからって、お前が行っても何も解決しないだろ? 第一、お前はあいつの顔なんか知らないんだから、病院なんてそれこそ探せないだろう」
「手紙に書いてある住所を辿れば、分かるかもしれません! もしかしたらご両親と一緒に住んでるかもしれないし…」
「だからって、見ず知らずの女に易々と息子の病院の場所なんて教えないだろう!」
「でも…」
でも、それでも
こんなことは、今までなかったんだ。
こんなに返事の間隔が開いたことなんてなかったんだ。
「もしかしたら仕事が忙しいのかもしれない。 な、もう少し待ってみろよ」
「でも…っ!」
珍しく私は食い下がった。
だって、『のっきーさん』は、私の一番だから。
「…でも…」
「……。」
泣きそうだった。
不安で仕方がなかった。
「…はぁ…」
長い沈黙を破ったのは宮向井さんだった。
(呆れられた、かな…)
それも覚悟していた。
こんなめんどくさい女なのだ。
呆れられて、当然なのだ。
「よし、」
でも次に切り出された言葉は私の予想外の言葉だった。
「行くぞ、神奈川。」
…なんでだろう
なんでこんなに、胸が跳ねあがるんだろう
「――はいっ!」
そう大きく首を振れば、宮向井さんはいつもの優しい笑顔で私の頭を撫でた。
神奈川県 横浜市
大きな街だ。
まるで、街ひとつが国のように。
(あ、れ…)
何を不意に違和感を覚えた。
人に酔ったのかもしれない。
でも何か、違和感。
(さっき、宮向井さん、なんて言ったっけ?)
小さな違和感。
きっとそれは人が多すぎるせいだと勝手に決め付けた。
私も人の多いところにはそれなりに行く。
でも、こんなに人が多く、人に酔ったのはここが初めてだ。
「おい」
「はいっ!」
「ここだ…」
宮向井さんに『のっきーさん』から送られてきた住所の書いた封筒を渡していた。
宮向井さんが私ひとりでは無理だろうと、率先して家探しをしてくれていた。
「ここ、が…?」
そこは、空き地だった。
「う、そ…だ」
「ホントだよ…」
嘘だ。
そんなの、嘘だ。
だって、
だって…そんな…
「空き地に、手紙なんか届くはず、ないっ―――!!」
気付いたら私は宮向井さんにそう叫び、そして走りだしていた。
視界の端に映った宮向井さんは、悲しい目をしていた。
―――――――――――――――――――――
少し短めで、すか、ね?(笑
これからがラストスパート、ですかね?(笑
対応する世界 対応できない私 ・ 上
のっきーさんへ
こんにちわ!
結構お久しぶり(?)な手紙になるんじゃないでしょうか?
やっぱりのっきーさんもお忙しいと思いますし、手紙は2週間に一回のペースがいいみたいですね。
あ、! のっきーさん! ビックニュースなんです!聞いてください!!
実は私、初めて友達が出来たんです!
しかもその友達がなんと前々から話題に出ていた宮向井さんです!
ね?びっくりでしょう?私もいまだに夢かと思いますもん(笑)
でも、夢じゃないんです! すごく嬉しいな…
宮向井さん、すごく優しいんですよ!
ちょっと、口は悪いですけどね(笑)
あとすごく手がおっきくて、指が長くて…
私、おかしなこと書いてますね(笑)
でも、ホントに嬉しくて、早くのっきーさんに知らせたかったんです!
だって、のっきーさんは、私の一番だから…
なんて…
これこそおかしいですよね(笑)
また面白いことや、ビックニュースがあったら手紙で知らせますね!
あ、あとあとあの金魚なんですけど、やっぱり名前は赤子でしょうか?
でも2匹いるから、一号と二号…う-ん…
なにかいい名前があるでしょうか??
よかったらのっきーさんが名前つけてあげてください!
きっと金魚たちも喜ぶと思うんで!
でわでわまた、手紙送ります
小町 春代
手紙を書く。
これだけの単純作業で、こんなにも幸せになれる。
これを読んだ『のっきーさん』はどんな顔をするだろう、とか
どんな返事を書いてまた手紙として送り返してくれるだろう、とか
まるで、恋をしているかのようだ。
(恋…)
『のっきーさん』は以前自分は男だと書いていた。
『のっきーさん』がいわなくても私は男だと思っていたけれど。
綺麗で、繊細で、でも女の人にはない角ばった文字
そんなのは男の人じゃないと書けないから…。
(もしかして、私)
そこでハッと気づく。
もしかして、私
(『のっきーさん』に、恋、してる?)
どくんと胸が跳ねた気がした。
「こーいーだぁ~?」
次の日私は早速『お友達』である宮向井さんに昨日思ったことを相談した。
「これって、やっぱり、恋なのでしょうか…?」
「ん~… まぁ、ん~…まぁ、なぁ…」
宮向井さんはなんとも曖昧な返事を出した。
それでも私はなぜだが嬉しかった。
こんな話、私はしたことがなかったから。
「恋…そうか…こい、かぁ…」
「まぁ、寒空の下来るかどうかわからない手紙を待つぐらいだからなー」
はっはっと宮向井さんは笑ってミルクティを一口すする。
ちなみにここは宮向井さんの家だ。
私と宮向井さんが『お友達』になったあの日から、私は宮向井さんの家に訪れる頻度が増えた。
(まぁ…お隣、だけど)
私もミルクティを一口。…おいしい
「宮向井さん! この紅茶すごくおいしいです! なんて紅茶ですか??」
「あ? あー…と、 ウバ。 ミルクティはウバに限る。」
「ウバ… ホントに宮向井さんは紅茶が好きなんですね」
他愛もない会話をして紅茶をすする。
宮向井さんが出してくれた軽いお菓子をつまむ。…今日は私がデパ地下で買ってきたマカロンだ。
「はぁ~… おいしい…」
思わず声が漏れてしまう。
徐々に私の中でこの空間が『のっきーさん』の手紙と同じように『特別』になりつつある。
「しっかし、引っ込み思案なお前が恋、ねぇ… まぁ相手はあいつだけどさ~」
どうせなら顔が分かるやつにしろよ~ と宮向井さんは続ける。
そうだ、私は顔もわからない人に恋をしている。
「顔、かぁー… のっきーさんはどんな顔をしてるんでしょうかね?」
「そんなん俺が知るかよー… どうする?すんげぇ不細工だったら」
くっくっくっと笑う宮向井さん。
私はすごい不細工な『のっきーさん』を想像する。
「うえええええ それだと、ショックだなぁ…」
「そんなに嫌がんなよっ! 今まで文通してきたんだろ」
そう言いながらもまたクツクツ笑う宮向井さん。
ホントにこの人は優しいけど、意地悪だ。
「…宮向井さん」
「んー?」
「のっきーさんに、会うって、出来ないでしょうか」
「ぶーーーーーーーっ」
宮向井さんが飲んでいたミルクティを盛大に吐き出した。
私はそれを顔面でダイレクトで受け止める。
「…みや、むかいさん」
私の顔はミルクティでびしょびしょになった。
「ごほっごほっ 悪りぃ… でも、おまっすごいこと言うから!」
そう言って箪笥から取り出したタオルを私に投げる。
…漫画みたいだ。
「そんなにおかしいですか、ねぇ…」
タオルで顔を拭きながら尋ねる。
(だって宮向井さんがあんなこと言うから)
「でも、文通ってのは相手が分からないから楽しいんじゃねーの?俺、間違ってる?」
「た、確かにそうですけど… でもっどんな人かも知らないで恋をするのは、ちょっとなぁ、と」
「でも会っちまったらもう文通の時みたいに親しく出来ないって場合もあるだろ?」
宮向井さんの言うことも一理あった。
確かに私は過剰すぎるほどの人見知り出し、顔を見てしまったら最後もう文通なんてとても出来ないかもしれない。
「うーん…」
でも、
(見てみたい…)
「な? やめとけって」
「うーん…」
(住所、分かるしなぁ…)
そこでふと疑問が浮かんだ。
(なんで住所は書くのに、本名は書いてくれないんだろう…?)
『のっきーさん』は住所の下、本来本名を書くべき場所に、なぜか『のっきー』と書いていた。
(住所は知らせてるのに、名前を知らせないのはおかしい…)
次の『のっきーさん』から返事が来た時、聞いてみよう。
それからの二ヵ月間、『のっきーさん』からの返事はなかった。
毎朝毎朝、ポストを見ては絶望していた。
でもなぜかあの寒い冬の日みたく、ずっとポストの前で手紙が来るのを待とうとは思わなかった。
きっと、宮向井さんがいたからかもしれない。
(……。)
それが嬉しい反面、なぜか、怖かった。
―――――――――――――――――
タイトル、そして本編も長くなってしまいました
前の『小町さんの友達』は前篇後篇使用だったんですが
今回のこの『対応する世界 対応できない私』
は上中下使用です…
いやぁ…上手くまとめれる力が欲しいものです
この話は最終話へ向かう大事な鍵となる話です
でもなかなかうまくいかずに、まとめ上げることができないです
さて、ここからラストスパートです
小町さんの友達 ・ 後篇
「ぴーんぽーんっ」
いつの間に寝たのだろう。
空はすっかり赤らんでいた。
「……ん」
「ぴーんぽーんっ ごらぁ 早くでろぉおお」
(呼び鈴、ちゃんとあるのに)
そんなところが、とても彼らしいかった。
「…はぃ」
「お-!やっとでたか-! って、何?寝起き?」
「や、ちょっと…」
いつものように変わらない宮向井さん。
違うところと言えば夕日に照らされて身体がオレンジ色ということだけだ。
「…ふ-ん。 あ、ほらっ」
宮向井さんが差し出してきたものは片手で持てるほどの紙袋だった。
ふわり、とかすかに知っている香りがする。
「え、あの… これ、は…?」
「こないだお前ん家で紅茶飲んだじゃん?それのお礼。つっても紅茶だけど」
ははっと笑う宮向井さん。
お礼?
「やっ…、だってあの時は宮向井さんが金魚を買ってきてくれたから、そのお礼で、私…」
「嘘。その紅茶、めちゃくちゃうまいから、ちょっと飲ましたかっただけ」
「―――っ」
この人は、どうして…
「どう、し、て…」
(こんなに、私に優しくしてくれるの?)
「え、あ、おまっ…」
あまりにも、ひどい顔をしていたのだろう。
見たこともない宮向井さんの顔だった。
でも、『拒絶』をふくんでいない顔だった。
(なん、で…)
だから、余計に、涙腺をやられてしまった。
「なん、で…」
「…なんでって、そりゃお前、紅茶好きなんだろう?だから…」
「でもっ、私っ、こんな、に、暗いし、みやむ、かい、さんに、迷惑ばっ、か、かけ、てる、し…」
「迷惑…?」
「だ、って、あの、手紙のっ、時も、金魚っ、も、…」
「…誰が、そんなこと言った?」
どきり、としてしまった。
そこにいた宮向井さんは、見たことない、本当に見たことない、真剣な顔―――。
「…俺、迷惑なんて一言も、言ってないだろう」
「…で、もっ…!」「迷惑ならすぐに言っているっ!」
聞いたことない声だった。
少し深い、声だった。
「お前が、誰に何を言われたのか、何をされたのか知らない。
でも俺はお前を迷惑だなんて思ったこと一度もない。大体迷惑ならこんなもの買ってきてない」
「……みや、むかい、さ…」
「俺は好きでやってるんだ」
この人は、なんでこんなにも、
どうしてこんなにも、
まっすぐな目をして私を見るんだろう。
どうして今まで会った人のように、嘘つきと罵倒する目で私を見ないのだろう。
「…だから、そんな悲しいこと言うな」
ぽんっと私の頭におかれた大きな手。
くちゃ、っと心地の良い音をたてて頭を撫でる細い指。
今まで、こんな人に出会ったことなんか、なかった。
「ほら、今日は俺ん家で紅茶入れてやるよ。さいっこうにうまい紅茶、飲ませてやる。…だから」
「……ひっく、」
(だから…?)
「俺と友達になってよ」
どれほど驚いたことか。
どれほど嬉しかったか。
とれほど、夢かと思ったか。
「そんで、教えてよ、お前のこと」
オレンジ色の中で私は泣いた。
文面だけの友達が全てだった私にできた、
初めての生身の友達。生身の暖かさ。
もう、私はひとりじゃない。
―――――――――――――――
小町さんの友達 ・ 後篇 でした
やっと隣人が友達になりました
『のっきーさん』にすがる小町の初めての友達です
しかしさいこうにうまい紅茶というものを
自分で書いておいて
私も飲みたいと思ってしまった私乙!(笑)
小町さんの友達 ・ 前篇
「ってことがあったのっ!!」
こんなに声を張り上げたのはいつぶりだろう。
それだけ私はこないだの出来事に驚いたのだ。
気付けば電話越しの姉はあきれ果てた溜息をついていた。
『……で、?』
「え、いやっ で って…! だからっ…!」
『ねぇ、あんた、大丈夫なの?』
「え、なにが…?」
『ちゃんと生活出来てるの?』
「あ、いやっ 今はそうじゃなくて、だから…」
『そうじゃなくて、じゃ、ないでしょう?何いつまで馬鹿な夢の話してんのよ。今は現実の話してるの』
「ゆ、夢なんかじゃないもん…!」
『じゃあそんな話、誰が信じるってのよ?』
「そ、れは…」
姉は、いつもこうだった。
私の考えを、決めた道を、すべて否定していた。
そう分かっていて、私が姉にこんな話をするのは…、
(友達が、いない、から)
『もう、なんでも私に言うのはやめなさい』
確かに『のっきーさん』は私の友達だ。
でも突発的な話題やすぐに返事をしてほしい話題は手紙では難しかった。
そして、第一、
(こんな話をしたら、嘘つきだと、思われてしまう)
『私も、暇じゃないの』
ぴしゃりと吐かれた言葉。
もう、それからの話は私の耳には入らなかった。
「暇じゃ、ないの、」
姉からの電話を切ってからずっとこの言葉が頭の中を巡っていた。
(…わたし、は)
自分の話を誰かに話したら『嘘つき』になると知っていた。
だから肉親である姉に話していた。
相手にされなくても、話していた。
…姉だけは、私のことを『嘘つき』だと言っても、『嫌い』にはならないと思っていたから。
「ほんと、馬鹿だ…」
涙が溢れた。
「暇じゃないの」そのたった一言。
でもまぎれもない姉からの『拒絶』。
私は、肉親からも嫌われてしまった。
「私の話は、誰も、信じない」
話だけじゃない。
声も、想いも、誰にも届かない。
私に、生きる意味はあるのだろうか。
「……。」
(そ、だ…)
金魚にえさをやり忘れていたんだった。
そう思って立ち上がり、私は金魚蜂をのぞく。
ぱかぱかと、口を開けて浮遊する金魚が、二匹。
どちらも宮向井さんにもらったものだった。
鉢も、金魚を貰った次の日に一緒に買いにいったものだった。
『のっきーさん』からの手紙がこなくて落ち込んでいた私に気をつかって。
わざわざ、『安売りしてた』なんて、嘘ついて。
金魚が、安売りするはずなんてない、のに。
真っ赤な金魚は浮遊する。
水面には波紋が小さな波を寄せる。
この波紋は、私の涙か
それとも、金魚が出した空気の名残か
「ほんと、馬鹿だ…」
ホントは、生きることに、意味なんてないのに。
―――――――――――――
前篇であります
今回は少々鬱仕様でございます(笑)
AM 5:21
白み始めた空は朝を迎えていた。
輝きだす太陽。息づく鳥の声。
こんな日は息をすうことでさえ、神々しく感じる。
そんな、朝早く目を覚ました日の朝。
本当はもう少し寝てもよかった。
でも、なんだか頭がさえてしまって、起きてしまった。
「……。」
寝ぼけ眼で家のドアを開ける。
私の朝の日課。毎日のポスト確認。
私は古いアポートに住んでいるため、ポストは一階の階段端に設置されている。
私の現在の位置は、2階。 …2階建てだからそれ以上はないのだけれど。
いつもと時間帯だけしか変わらない風景。
でも、いつもと違う風景がひとつ、そこにあった。
(あ、れ)
「……。」
ポストの前に子供が立っていた。
子供、というには大きく、大人というよりは小さい、そんな中人な男の子。
その肩には郵便屋さんが持っている大きなガマ口鞄をぶら下げている。
「あ、えと、おはようござい、ます」
一応あいさつだけでも、ととりあえず声だけでもかけてみる。
こちらを見たその子は、灰色の目をしていた。
(珍しい、いろ)
つい、その目に魅了されてしまっていた。
見たことがあるような、ないような、灰色の目。
「おはよう、ございます」
微笑んだ彼はやっぱり見たことあるよな、ないような笑顔だった。
(不思議…)
初めて会ったのに、初めてじゃない、どこか懐かしいこの感じ。
「朝、お早いんですね」
今度は灰色の彼からの話題提供。言葉使いはやわらかい。
「あ、えと、なんだか、目が覚めてしまって…」
たははと笑ってみせれば、同じように灰色の彼も笑った。
「小町、さん」
不意に名前を呼ばれて驚いた。なぜ知っているのだろう。
郵便屋なのだから名前は分かるだろうけど、どうして人物まで特定できようか。
「なんで、名前…」
「あ、朝、よく見かけるんです」
そう灰色の彼は笑う。 ポストの前でよく立ってるから と。
私は急に恥ずかしくなって口を走らせた。
「でも、私、会うのは初めて、ですよ?」
「はい。いつもはもう貴方の手紙をポストに入れてからです。見かけるのは」
「どうやって…?」
「帰る途中に見かけるんです。全部配達物を配り終わってから。」
「あ、ああ…」
(なるほど…)
「ところで、…はい」
「あ、…!」
灰色の彼が差し出したのは、私が毎日ポストの前で待っているものそのものだった。
「今日は、ビンゴ、です」
そう、私の唯一の友達で文通相手の『のっきーさん』からの手紙。
「…ありがとう、ございます」
思わず笑みがこぼれる。早起きはやっぱりことわざ通りらしい。
「…貴女に、早く、それを届けたくて」
灰色の彼は笑う。全てを魅了するその笑顔で。
「あ、えと、お名前、聞いてもいいですか?」
手紙を握りしめていう。私からこんなこと聞くのは、きっと初めてだと思う。
「名前…は、あ、もうこんな時間だ!」
いいところで灰色の彼は時計を取り出す。
「もう、次に行かないと…それじゃっ」
灰色の彼は走りだす。せめて名前だけでもと思い口を走らす。
「あ、えと…!」
「名前はっ…」
彼が笑いながら走りだす。
「いっぱいです」
そして角を曲がって行ってしまった。
「いっぱ、い…?」
(どういう、意味…?)
少しの間私はそこに立ち尽くしていたみたいで、
次に意識を取り戻したのはぶろろろろというバイクの音だった。
「おはよ-ございますぅ~」
いつも見る制服。
さっき見た制服。
「え、」
「郵便ですぅ~」
(あ、れ?)
「あの、えと、今、郵便、きましたよ?」
「へ?そんなはずはりまへんよぉ~?郵便は5時半て決まっとりますんでぇ~」
(5時、半…?)
じゃあ、さっきのは…
「そ、ですかっ! おつかれさまですっ!」
それだけ言い残して私は階段を駆け上げる。
きっと郵便屋さんには変に思われたに違いない。
でも…
(この手紙…)
確かにこの手紙の消印は今日の日付だ。
でも郵便屋さんがくるのはいつも5時半…。
(じゃ、さっきの子は…?)
とりあえず手紙を開けようとして、手を止める。
「……?」
封筒の封のところになにか挟まっている。
銀色の、
(毛?)
「…くしゅんっ」
見た瞬間に思わずくしゃみがでた。
これって…
「猫の、毛?」
私は重度の猫アレルギーだった。
「え?」
『のっきーさん』
今日の私の出来ごとは、
真実は、小説よりも、『奇』なり、です。
-----------------------------------
銀色の猫は私的に神的存在です。((
私は猫アレルギーじゃないけど
猫アレルギーの人はくしゃみがすごいと聞きました
大変だなぁとしみじみ
It gets on well.
「なぁ、お前」
気になることがあった。
俺の家の隣にすんでいる引っ込み思案に。
「は、はい?」
ほら、やっぱ人と喋る時、なんかビクビクしている。
最初は俺だけなのかと思ったけど
(みんな、なんだよな、こいつの場合)
一回街でこいつが友達と歩いているところを見かけたけど、
やっぱりこいつは友達にも俺と同じ挙動不審だった。
(友達、超ガンガンな感じの子だったけど)
そんなことより
「あいつと、まだちんけな手紙交換してんの?」
あいつとはこいつの唯一の友達と言えるであろう
『のっきーさん』という文通相手のことだった。
「あ、はい!」
あいつの話をするをする時、こいつの顔は笑顔に包まれる。
(ホント、好きなんだな)
そこがなぜか気にいらないこともないけども、それより…
「なんでメールじゃなくて、『手紙』なの?」
「え、」
だってこのご時世だ。
こいつだって携帯持ってるのは知ってるし、
わざわざ『手紙』なんていつくるかわからない手段をとらなくてもいいはずなのに。
(第一前にさっむい日にポストの前で何時間も立ってるぐらいだし)
「え、っと…」
「なんだよ」
(歯切れわりぃな)
「その…、私、…メール、苦手で…」
「……。」
「その、なんか、ひとつ送るのに、30分ぐらいかかってしまって…」
「…プッ」
(なんと、いう)
「ははははははははははははっ」
「えぇえ!?」
「ははははははははははっそかそか…んくくくくく」
「えっあ、あのっそんなに、笑わないで、くだ、さい…」
恥ずかしそうにどもるこいつをみてさらに腹筋崩壊。
そかそか…
(こいつ、確かに遅そうだもんなぁ…)
ホント、
「奇遇、だな」
「え?」
こいつとは
「俺も、メールおせぇんだ」
馬が合う。
――――――――――――――
ちょっと気分を変えて短編なんぞをうpしてみました
視点は宮向井視点
メールって便利だけど指がつる
It gets on well. って翻訳サイトで調べると
『馬が合う』らしいです
ほんと、なのか否か(笑)
ハルイロ金魚
「ん。」
土曜日。
花のお休み。…なの、だが
「え。」
突然宮向井さんが家のドアを叩いてから数十秒後、
手渡されたのは水の中でふよふよと浮遊する金魚だった。
訂正。
お祭りとかで金魚すくいした後でもらえる金魚入りの袋だった。
「え…?」
もちろん、私はなんのことだかわからない。
…てか、これでなんのことだかわかる人がいたらその人はただ者ではない!、はず。
「やるよ。」
「え、」
…私、さっきから え しか言ってない。
「え、っと、ちょっと詳細を、…プリーズの方向で」
(なんで英語で言ったの、私)
「…なんとなく」
「……。」
(えぇ?)
「そんなあからさまに変な顔すんなよ-」
と口をとがらせる宮向井さん
「えっ、あっ、だ、だって…」
意味が…
「ちょっと買い物に行ったら安売りしててさぁ、
お前どーせ、この休みにあいつに手紙しか書かないで時間つぶしてると思って。
だから、はい。暇人に金魚のプレゼンツ。」
あいつとは私の唯一の友達の文通相手の『のっきーさん』のことだ。
…てか
「あ、えと、」
(金魚の、安売り?)
「ありがとう、ございます」
「ん。」
受け取った金魚は2匹で、ふよふよふよふよかわいく浮遊。
「…かわいぃ」
思わず笑顔がこぼれます。
「…そか」
そしたら宮向井さんもなんだか優しい顔つきになって
なんだか…
(意外、だぁ)
「あ、えと、金魚、安売りとか、珍しいですね」
「あっ? あ…え、あ、うん。まぁ、な」
なんだか会話を続けたくてそう言ってみたら、
なんだか宮向井さん、様子がおかしいご様子で…
(どうしたんだろう…?)
「……。」
(まぁ、いっか)
「ありがとうございました」
そう言って別れを言おうとしたら
「あの、さ」
宮向井さんからの話題の提供…珍しい
「はい?」
「…あいつ、から手紙、きたの?」
(また意外)
「あ、はい! やっぱり、雪で郵便屋さんが遅れてたみたいで」
(こないだのこと、気にしてくれてたんだ…)
「…そか」
なんだか宮向井さんの顔がホっとしたような感じがした。
(優しいなぁ)
「これからは、ちょっと来るの遅くなってもあんまり落ち込むなよ」
「はい! あの、その節は、ご迷惑おかけしました…!」
私が頭を深く下げると
宮向井さんがポンっと一回撫でてくれた。
(手、割とおっきいんだなぁ…)
また宮向井さんの 『意外ポイント』 を発見してしまった…。
(あ、)
「…もし、かして」
「あ?」
(私に、気を、つかってくれた…?)
「なに?」
「あ、いえっ…」
「なんだよ」
「ありがとうございます!」
「…さっき、何回も聞いた」
「また、言いたくて」
(今日は、いい日だぁ)
そう笑っていうと、宮向井さんもちょっと笑ってくれた。
「あの、お茶でもどうですか?」
「…俺は紅茶しか飲まんぞ」
(はは…また『意外ポイント』発見! …でも)
「私も、です」
ふより、ふより、真っ赤に、金魚が浮遊。
明日は宮向井さんを誘って、ちょうどいい大きさの金魚鉢を買いに行こう。
だって明日は日曜日
だってもう外は、春の兆し
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金魚が好きです
てことで
最初の設定でいろんな人を出したいと発言しておきながらの金魚
この話に人が出る日はくるのがろうか…((おろおろ
浮遊って言葉が好きだったりします
浮遊、なんか響きがすき
あと紅茶も好きです
セイロンとかキャンディとか
最近は家にキャンディがあるので飲んでます
この話、好きなもの詰め込んだなぁ…