私の愛した歌人 5 北原白秋
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと 外の面の草に日の入る夕
ヒヤシンス薄紫に咲きにけり はしめて心震ひそめし日
アマリリス息も深げに燃ゆるとき ふと唇をさしあてしかな
あかあかと五重塔に入日さし かたかげの闇をちゃるめらのゆく
日も暮れて櫨-はぜーの実採りのかへるころ 廓-くるわーの裏をゆけばかなしき
手に取れば桐の反射の薄青き 新聞紙こそ泣かまほしけれ
色硝子暮れてなまめく町の湯の 窓の下なるどくだみの花
百舌鳥啼けば紺の腹掛け新しき わかき大工も涙ながしぬ
かなしきは人間のみち牢獄-ひとやーみち 馬車の軋みてゆく礫道
牢獄いでぬ重き木蓋をはねのけて 林檎函よりをどるここちに
しみじみと海に雨降り澪ーみおーの雨 利休鼠となてけるかも
薔薇の木に薔薇の花さくあなかしこ 何の不思議もないけれどなも
葛飾の真間の継橋夏近し 二人わたれりその繼橋を
米櫃に米のかすかに音するは 白玉のごとはかなかりけり
上句から八首は、故郷九州柳川での思い出の歌。次の獄屋の歌は、上京した下宿の隣家の若妻に恋をし、その夫から姦通罪で訴えられて、獄に繋がれた時の歌。最後の二首は第二の妻、大分国東出身の江口章子と、葛飾の真間で貧困に耐えて暮したときの歌。
後に北原は、短歌よりも童謡・詩歌の世界で突出することになる。

