秋の味覚 秋刀魚
昨日デパートに行ったら、魚売り場でピカピカ光っているサンマを見つけ、一匹だけ買って塩焼きにした。いやその身の美味しいこと!。
いままで高級魚ばかり買っていたが、旬の魚は油が乗っていて、高級魚に勝るおいしさに吃驚した。
日本語ではサンマを「秋刀魚」と書いて、季節の秋に獲れることと、魚の形を刀に見立てた表現、何と感性ある日本語の表現ではないですか。昔の人の知恵は素晴らしい。
サンマと言えば、佐藤春夫の詩を思い出す。
あわれ
秋風よ
情ーこころーあれば伝えてよ
―――男ありて
今日の夕餉-ゆうげーに ひとり
さんまを食-くらーひて
思いにふける と。
さんま さんま
その上に青き蜜柑の酸ーすーをしたたらせて
さんまを食ふはその男のふる里のならひなり
そのならひをあやしみなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ
あわれ、ひとに捨てられんとする人妻と
愛うすき父をもちし女の児は
ちいさき箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸ーわたーをくれと言ふにあらずや。 以下略
佐藤春夫は若い頃谷崎潤一郎に可愛がられ、何回と家に出入りしていた。その内、谷崎が妻、千代子の妹のせい子を別居させて、
横浜で同居する。その不実をなじった佐藤春夫は、ついに谷崎の妻、千代と、娘の5歳の鮎子を引き取る。その前から佐藤春夫は、千代夫人をひそかに慕い、彼の『純情詩集」には彼女を思慕する詩を書いている。
このサンマの歌は、母子を引き取った当時の夕餉の情景を歌ったもので、もの悲しさが漂う彼の代表的な詩になっている。