「…歓迎会?」
「そう、俺幹事で開くから。来週の金曜は空けておいてね」
2006年、2月。
私は内定が決まり、その会社で研修に入っていた。
職種はちょっと特殊だけど…サービス業に入るのかな。
同期は2人で全員女性。
休憩中は、やっぱりガールズトークで盛り上がる。
生まれも育ちも個性も3人とも全く違うけど、だから楽しい。
そんなとき、上司の鈴木さんが話しかけてきたのだ。
「どこでやるんですか?」
「まだ内緒ー」
「どうせやっすい居酒屋でやるんでしょ」
同期の和美がからかうように会話に入ってきた。
和美は一言で言うと…優しいどS(笑)
ズバッと言いたいこと言うけど、間違ったことは言わないししっかりしてる。
基本優しいしね♪
「どうせとは何だどうせとは!!安いのは当たってるけど(笑)」
「当たってるんだ(笑)」
もう一人の同期、泉がおかしそうにつっこむ。
泉は…理解するにはまだまだ時間が要るような、不思議な子(^^;
仕事出来るししっかりしてるんだけど、少し世間とは違うような…
「まぁもうちょっとしたら詳細は教えるから。頑張って俺たち老人共を接待してね」
「え、私たちを接待してくれるんじゃないんだ(笑)」
研修に入って2ヶ月くらいだけど、こんな風に鈴木さんとはすっかり打ち解けられていた。
この部署は私たちが入ってくるまで男性しかおらず、しかも皆見た感じ30代~50代。
この部署を明るくするためにも、一気に女性を3人入れたらしい。
女一人で入れられなくて良かったー(^^;
そして金曜。
部長や他の上司にお酌をしてまわり、1時間もしたら皆快調に酔い始めていた。
和美と泉は二人でかたまり私の席とは一番離れたところで上司たちと話している。
ちょっと一人にしないでよーっ(´д`)
って最初は思ったけど、飲んでいい気分になってきたらそれほど苦ではなくなってきた。
お湯割りの作り方も教えてもらった。お湯から先に入れるんだってねー
年が離れていても、自分の知らない時代の話を聞くのはおもしろい。
ていうか自分の話をするのって苦手というか、面倒だし聞き役に徹していたほうが楽なんだよね。
それに、隣に座っていたのは鈴木さんだった。
「えー!!鈴木さんって44歳なんですか!?」
「そうだよー見えないでしょ(笑)」
「自分で言うなし(笑)……でも本当に見えない!37くらいかと思ってた」
「嬉しいこと言ってくれるね~。でも俺より年下もいるよ」
「えっ誰ですか!?」
「黒崎さん」
「……えーっと……」
「おいっ(笑)今日も来てるのに…ほらあの人だよ」
鈴木さんの目線の先には、和美と泉と話している、眼鏡をかけた穏やかそうな男性がいた。
あぁ黒崎さんってあの人か…自己紹介したときくらいしかまだ話してないしなぁ…
「……なんか」
「なんか?」
「鈴木さんと黒崎さんが同じクラスにいたら、絶対に友達にならないタイプですね」
「あはは!!俺もそう思うわ!!(笑)」
「存在感が鈴木さんと真逆ですよねー」
鈴木さんはやんちゃな感じで、若い頃はモテたんだろうなっていう顔(笑)
黒崎さんは、この人怒ったことあるのかな…ってくらいオーラが穏やか。あくまで見た感じだけどね。
結局そのまま席替えもせずに2時間は過ぎ、明日も早いしそのまま帰ろう…と思ったら
「和美…行く?2次会」
「私も部長から誘われた…断れないよねぇ」
「どこ行くんだろうね…ていうか泉は?」
「帰った」
「はっ!?いつ!!??」
「知らない(笑)」
泉…声くらいかけようよ^^;
2次会は、部長、森本さん(60)、小田さん(48)、鈴木さん、私、和美のみの参加だった。
場所は部長のいきつけのスナック。
………早く帰りたいなぁ……………
私と和美は部長とチークダンスを強要され、部長のいやらしい目線と手つきをたっぷり堪能させられた(-_-;)
でっぷりとしたお腹。禿げた頭を苦笑いで見ながら、とにかく早く終わってくれることを願っていた。
酒臭いしホント気持ち悪い…胸ばっか見てんじゃねぇよ。
ようやく開放された後は、鈴木さんのバックを椅子の上で体育座りしながら抱えて寝たふり^^;
和美許せ…
終電ギリギリの時間になり、部長と森本さんを残しようやく帰路についた。
あぁ…ホント疲れた……
すっかり酔いは冷め、鍵を探すのも億劫な私は自宅のインターホンを押した。
「ただいま…」
「おかえり。遅かったね。」
私には、同棲している彼がいる。
名前は謙二。私が19歳の時上京して最初にアルバイトとして入った所に、彼はいた。
27歳で未だフリーターだけど、今働いているところでゆくゆくは社員になるみたい。
付き合って2年半経つけど、私の気持ちは付き合いたてのころと何も変わってない。
優しくてほわんとした雰囲気を纏った謙二が、大好きだった。
「どうだった?歓迎会。」
「疲れた。癒して。けんちゃん抱っこー」
「ん。…………って酒くさ!!」
「全然酔ってないもーん部長が悪いんだよー」
大きくて綺麗な手。彼の手で頭を撫でられると、不思議と心が軽くなる。
決して背は大きくないけど、彼の腕の中は泣きたくなるほど心がじんじんする。
ほっぺはぷにぷにで柔らかくて、香水もつけてないのにいい匂いがして。
彼のすべてが私の癒しだった。
大切にしなきゃ。たった1人かけがえのない彼を
そう、心から思っていたはずだったのに。