『朝蜘蛛』 詩 金子みすゞ
朝から朝蜘蛛さがったし、
朝からなんだかうれしいし、
きっと、今日こそ来るでしょう。
生きて、遠くに棲んでいる、
お父さまのおむかえが。
すぐに、私は髪結う手て、
好きな手毬のおべべ着て、
赤いお馬車に乗るでしょう。
赤いお馬車のゆくみちは、
白い芒のみちでしょう、
野菊もちいさく咲いてましょう。
機のたってる小さな村、
鐘の鳴ってる寺のまえ、
しめった、暗い森のなか。
むこうのむこうに城のよな、
大きなお家がみえるでしょう。
お父さまは待ちきれず、
門から駈けてくるでしょう、
私も馬車から飛ぶでしょう。
私は「父さま」と呼ぶでしょう、
いやいや、黙っているでしょう、
あんまり、あんまり、嬉しくて。
朝からなんだかうれしいし、
朝から朝蜘蛛さがったし、
きょうは何かがあるでしょう。

お母さまも知らないが、