
この週末はホノルルでもイベント満載でした。出不精の私も、珍しく街を右往左往(笑)。とはいえ、ダウンタウン周辺に収まっているのが私らしいです。
たとえば日曜の夜は、イオラニ宮殿で歴史的なイベントがありました。1700年代初頭に編まれた、ハワイ島王家の聖なる血統を伝える2100行以上の長~い叙事詩「クムリポ」を詠唱する大きなイベントが、宮殿の庭で夕暮れ時から開かれたのです。ハワイの9月は「歴史月間」としてさまざまな歴史イベントが行われ、クムリポの詠唱もその1つでした。
クムリポは、ハワイ島でロノイカマカヒキという王族の男の子が生まれた際に編まれ、捧げられた叙事詩。もちろん、全編ハワイ語です。以下、私の著書「やさしくひも解くハワイ神話」から少し引用しますね。
さてロノイカマカヒキ王子の血統を讃えるために創られたクムリポですが、その物語は王子の先祖の生誕をはるかに遡り、まだ地球がどろどろとして熱く、暗闇しかなかったこの世の始まりからスタートしています。
そこに珊瑚が生まれ出てヒトデやナマコが続き、やがて海の生物、陸の生物が出現。後半になると神々が現れ、王子の先祖となる王族へと連なるという、何とも壮大な叙事詩となっています。
しかもユニークなのは、王子の先祖代々の名の列記の合間に、多彩な神話がちらり、ちらりと挟まれていること。
たとえば前述の、タロイモとハワイアンの始祖は兄弟であるという物語や、父なる空の神ワケアが海を漂っていた女神ヒナを見つけるくだりも、クムリポで語られています。クムリポが王族の系譜を示す詠唱というより、むしろハワイの創世記、神話の宝庫として知られるようになった由縁でしょう。
そうなんです。ロノイカマカヒキの系譜がこの世の始まりまで遡る壮大な物語の一環として語られていて、その結果、クムリポにはたくさんの神話がはさまれています。神々の時代にまでさかのぼる、宇宙的な叙事詩なのですよね。最初に登場する神々からちょうど900代めの子孫がくだんのロノイカマカヒキだそうで、ようするに「この王子は神の子孫だよ」ということを表す叙事詩というわけです。
クムリポは…それが何たるかを把握するのがとっても難しいのですが、ハワイ神話を学ぶものとしては避けては通れない関門で。口承から文字に書き起こさせたのが、ハワイ王国7代目のカラカウア王。それを英訳したのが8代目のリリウオカラニ女王です。詠唱に3時間かかるとは聞いていたのですが、それが久々に詠唱されると聞いて、日没まで少しだけ聞いてきたのでした。

もちろん、ハワイ語の内容は私には理解できなかったのですが…。何人もの詠唱者が順番に詠唱するクムリポが、それは壮大でとてつもないスケールのものであることはよ~く感じられました。クムリポが紙のうえでの存在から立体的になって…なんというか、やっとわかったのですよ。それがハワイにとって大変な価値を持つ知的財産であり、古代のハワイアンがどんなに叙情的で深い精神文化を持っていたのかを…。やっとやっと、クムリポの価値を身を持って知ることができた気がします。
ハワイアンをはじめポリネシアの人々が文字を持たなかったことで、「ハワイの過去は失われている。誰にもわからない」なんてとんでもないことをいう人がいますが…。ハワイをなめんなよ! ですよね。
ちなみにロノイカマカヒキは、カラカウア王やリリウオカラニ女王の直系のご先祖さま。王家に伝わる聖なる叙事詩に最初に興味を示したのは、ハワイ訪問中だったドイツ人人類学者とか。少し翻訳してすぐにその価値を見抜いた学者さん。さすがですね~! そのお陰で、今では私たちもクムリポを英語テキストで読むことができるというわけです。それでもとてつもなく難物ですが…。
ああ、あの夜のことは書いても書いても終わらない。またこの件をお伝えするため、戻ってきますね。