
「こういう犯人は一度現場に戻ってきます。それも近いうちに」
蒼は張り詰めた表情で呟いた。
「なぜ、そう言い切れるんですか?」
瑠璃は緊張した面持ちで聞いた。
「幸せが壊れたことを確認するんです。目立ちにくい夜、夕飯の時間帯・・・昨日までは楽しく過ごしていた時間帯にまるで、自分の力を確認するように」
そう説明する蒼自身の表情もどんどん張り詰めていった。
「じゃあ」
「必ず戻ってきます。でなければこんな殺し方をする意味がありませんから・・・」
瑠璃達は少女の家の前で張り込んだ。
今朝までは幸せそうな親子の会話が交わされていたはずの家に、今は警察関係者以外の立ち入りを禁じられていた。
「ほんとに来るんですか?」
張り込みを開始してから5時間。
夜が更けていく中、犯人らしき人物が一向に現れない状況に、瑠璃は蒼の言っていたことに疑いを持ち始めていた様だった。
「まぁ、忍耐ですよ、忍耐、今晩じゃないかもしれませんし・・・」
蒼自身にも犯人がいつ現れるかは流石に予想できずにいた。
「あっ!」
瑠璃は思わず声を上げた。
蒼も瑠璃の声につられて覗いてみると家の前に男が立っていた。
「あ~あ、家が真っ暗じゃないか、昨日は楽しそうにご飯食べてたのにねぇ」
男は不快な笑みを浮かべて、家に向かってブツブツいっていた。
「先生の言う通りだったわね」
「!?」
男は路地から出てきた瑠璃達に驚きを隠せない表情をしたが、逃げようとする様子はなかった。
「あなたのような方は診ればすぐにわかる・・・そんな歪んだ体には歪んだ心が宿ってしまうもの・・・」
「何ぃ?」
「あなたは骨盤が歪んでいる、それに伴なった猫背、さらにあなたのように症状が酷ければ顔さえも歪むんですよ・・・歪んだ笑顔にな!」
「人の幸せを引き裂いてそんなにうれしい?」
「・・・クククッ・・・ハッハッハ、そうさ!楽しいねぇ!自分が死ぬってわかった時のあの顔!絶望と恐怖に歪むんだ!お前さんはどうかな!?」
ドンッ!
夜の住宅街に銃声が響くと、瑠璃はその場に蹲った。
男の手には小型の拳銃が握られており、その銃口からは僅かに煙が立ち昇っていた。