ここは山奥にある、のどかな村、住民達は小さな家に住み、各々の役割を果たしながら、小さく掛け替えのない幸せを築いていた。
そんな村から少し外れた所に、その小屋は建っていた。
「はい、終わったよスズちゃん」
「ありがとう、トウマさん」
小屋の中では、男が薬草のついた湿布を少女の腰の辺りに貼り付けていた。
このトウマという男、普段は薬師としてこの辺りで採った薬草を用いて様々な病や怪我を治療している。
無医村であるこの村では頼りにされている存在だ。
「少し休むといい、お父さんが亡くなってからの無理が祟ったんだよ」
村に住む15歳の少女スズは、男手一つで育ててくれた父親を半年前に病で亡くし、それ以来一人で懸命に畑仕事をしながら暮らしていた。
「ありがとう、トウマさんはすごいね、強いし、お医者さんみたいなことまで」
治療を終えたスズは、トウマに礼を言って微笑んだ。
「おれは‘破魔人’だからね、人の心と体を癒すのが仕事だから」
そう言ってトウマも微笑み返した。
この国では古くから霊と人間が密接な関係をもち、毎年、夏の降臨日と呼ばれる日には前年の降臨日からの約一年間の間に未練を残し世を去った人々の霊が降魔となり降臨していた。
その降魔から人々を守り、霊を成仏させることを生業とした武人がいた。
人々は彼らを‘破魔人’と呼んだ。