
「愛ちゃん、辛いこともあるでしょうが、ママの分までがんばって下さい」
蒼は少女を抱きしめたまま、耳元でやさしく呟いた。
そして、腕を解くと次は目を見て問いかけた。
「悪者は笑ってたのに怖い顔だったの?」
「うん」
少女も蒼の目を見て答えた。
「教えてくれて、ありがとう、瑠璃さん行きましょう」
そう言うと、蒼は少女に手を振った
「えっ、もういいんですか?」
「ええ」
少女の病室に来てから、少し話をして、聞き出した事と言えば、
‘犯人の笑顔が怖かった’という情報だけだった。
病室にいた時間は10分にも満たない。だが、蒼は満足そうな顔で病院を出た。
面会を終え、車に戻った二人は駐車場に停めたままで話しだした。
「先生、何か判った事ありましたか?」
「えぇ、そうですねぇ、瑠璃さん、被害者の方に共通点は」
「ありきたりですが、死亡した被害者は全員、幼い子供の母親です。」
瑠璃は仕事用の手帳を開いて答えた。
そこに書かれたメモを見ながら、ふと横を見ると、蒼は携帯をいじっていた。
「話、聞いてます?何してるんですか?」
「鬼頭警部に前の2件の被害者の方の傷口の写真を送ってもらったんですよ」
蒼は当然の事の様に答えた。
「また・・・」
瑠璃は、この話題になると相変わらず呆れた表情を浮かべていた。
「これは・・・」
携帯に送られてきた傷口の画像を見て、蒼の表情は一気に曇った。
「どうかしましたか?」
今まで冷静だった蒼の顔色が変わったのを見て、瑠璃は尋ねた。
「1人目は両手首をズタズタに、二人目は頚動脈を切断されている」
「ええ、確かにその通りですが」
瑠璃は蒼の携帯を覗き込むと自分のメモと見比べながら言った。
「人は普通、傷口を押さえるもの、すると・・・数分の間苦しんで、死んでいく・・・それを見せる為に子供は殺さなかったんです、犯人はそんな様を楽しんでいるのかもしれません・・・早急に手を打たないとまた犠牲者が出る可能性が高い!」
蒼の言葉を聞いて、瑠璃は表情を一気に引きつらせた。