大阪万博のパビリオンが建たない!って噂が燎原の火のごとく広がっております。

燎原の火【りょうげんのひ】とは、燃え広がって野原を焼く火は、勢いが盛んで止めることができない、という意味だそうです。

つまり、万博が間にあわなえ!!って人々がみな思い始めた、噂しだした、伝えだした、ということを意味します。

その証拠に、こんな記事が出ました。

 


どういうことかというと、2019年4月いまから4年前に労働基準法の改正があったんです。具体的には残業の上限規制です。

残業時間は、月45時間・年360時間が上限

という決まりです。

月45時間?そんなに残業してる?と思う方もいるかもしれませんが、
まず、もともとの労働時間は8時間って制限されているの知っていましたか?

朝9時に出社して8時間だから17時、ではなく休憩時間も60分必要だから、9時に出社して18時に退社です。
それが労働時間の原則です。

それ、守れているでしょうか?
正直、私が鬼のような設計事務所に勤めていた時代、バブルの1990年頃ですが朝始発の6時に出社して終電の夜の11時半に退社してました。
途中、休憩時間というかおにぎりとかパンを片手に模型づくりとかしていましたから、まるまる17時間労働ですね。
完全にアウトです。
土日も出社してましたから、
1日17時間、週に119時間。

なんかですね、そういうノリだったんですよ、バブル期の建築設計事務所って。
美容師とか医師の卵とかもそうでしたね、あとテレビ局のADさんとか、雑誌の編集者のアシスタントとか。
深夜12時くらいにも開いてる飯と飲みができるバーに行くと、そういう仕事の修行者たちがいっぱいいて友達になってました。

私はまだ深夜とはいえ家に帰っていましたけど、当時も伝説の有名な建築家で京都駅とかやった人の事務所ではスタッフは家にも帰っていない、拘束時間24時間とか言われていました。
修行だからいいんだ、とか、3年間だけがむしゃらにやって仕事を覚えるんだ!とか、
スタッフも好きで残っているんだからいいだろ?という感じだったわけですが、
そういうのは、もうダメです。


ですが、建設業はどうしても残業になりがち。
まず、工事現場の作業のコアタイム、職人さんの労働時間が8時から17時くらいなんです。
で、監督さんはその前に来る。監督見習いさんはさらに前にくる。
なぜなら、遅刻したら「舐められる」から、です。
工事現場というのは複数のキャリアも経験も違う人の集まりですから、単純かつ明快な組織の上下関係や決まりが重要なんです。



責任ある立場の人が、自分らより早く来ている、ならばちゃんと自分も時間どおり来よう、という意識を維持させる。
だから監督は朝7時とかに来ている。(いい監督だと7時に来て現場のチェックしたら、喫茶店とかで9時まで時間潰して、わざと遅れてきたふりもする)

だから、私もちょっと厳しめの指示とか難易度の高い設計など、都度都度現場に出向くときなど、監督より早く行く、そして工事監督から「早いっすね」と言わせる、というのをやってました。

そして、現場の片づけが終わってから監督も帰れるのか?というと、帰れません。
今日の現場の記録や問題点を抽出し、明日に備えるための準備作業としてのデスクワークが始まるからです。
職人さんが帰った後でそれやってるとすぐに2~3時間経ってしまう。
夜の8時をすぐに過ぎます。
で、材料や工事の手配や図面の読み込みと指示なんかを終えて、設計事務所に今日の工事現場でおこった質疑や必要な資料の催促をする。

そんなものが、設計事務所には夜の8時頃にFAXで、今はメールでしょう、届きます。
その質疑はだいたい「明日までにほしい」「できるだけ早くほしい」という情報です。
なので、夜9時から11時の終電まで全力で質疑応答して帰らないといけない。
で、明日の朝も7時より早く現場にいってビビらす!という馬鹿なことをやっていました、私のいた鬼の設計事務所では。


当然、そんな鬼のような事務所には新人が来ても2か月くらいで辞めます、が、
当時はバブルで建築家ブームで、みんな建築家になりたい!ていう時代だったので、次から次へ、入所希望者がいたので辞めた後にまた誰かが入るという感じでした。

 

話が、ズレてしまいましたが、鬼の設計事務所ほどではないにせよ、建設現場の管理者(いわゆるゼネコンの元請関係者や下請けの責任者などの資格者や管理者)は作業時間の前と後に管理の時間がくっついてくるので、毎日2時間は絶対に残業が発生してしまうんです。それで、週休1日で土曜日も工事やってると2時間残業を25日で50時間ですから規定の40日オーバー確実なんです。むしろ毎日夜9時くらいでしょうから3時間で75時間でしょうか。

つまり、この慣習をやめろ!というお達しなんです。
で、建設業界の事情もわかるから5年間の猶予が与えられて、各社とも業務の進め方や工事の見積や工期の修正もおこなっていて、来年からは残業なしでどう現場を回すかを制度的にも検討しているところなんです。



この残業規制、守らないと罰則もあるんですよ。
雇用者には、6か月以下の懲役、30万円以下の罰金です。
稼ぎたい働きたいから残業やらせてくれ!というケースでもダメです。

なので、工事の作業時間の終了と同時に監督も終了、設計も終了、というのは上記で解説したように無理だから、
工事側で前半と後半の報告や準備時間を分担してもらうか、管理者が午前の人と午後の人でペア体制で挑むか、なんですが、そんな人材の余裕はないので、工事作業の実働時間をさげるしかないでしょう。

つまり、工事現場の実働時間を6時間に縮めないと、ゼネコンの監督とか下請けの資格者や責任者、設計事務所などのホワイトカラー人材は労働時間を8時間にできないということです。



つまり、残業できないということは、工事コアタイムも縮まるから、工期はさらに遅れるということです。

工事作業が8時間→6時間になるというのは25%の減だから、1年の工期なら3か月延びます。

さて、まだ着工もしていないパビリオンで、万博協会は何をそんなに焦っているのかな?と不思議になったんですよ。
今すでに着工していて、工事の進捗が遅れているから、突貫工事やりたいから残業規制を外してくれー!!というのなら、まだわかりますよね。

まだ、着工もしていないんだから、工事を煽ってもしょうがない。

パビリオンの出店国に早く決めろ!とかいうのならまだしも、

客の注文が遅いから、厨房が早く調理しろ!っていうのはおかしい。

むしろメニューに「早出しメニュー」をそろえるとか、チャーハンとか炒め物中心で考えてもらって、長期間漬けておくとか発酵を待つような食材は使わないように考えるなど、

計画の方をちゃんと見直すべきなんじゃないでしょうか?