すぐではないんですが、引っ越しするかもしれないという事情がありまして、
コンフォルト編集部の有限会社アイシオールさんが、
昨年すごいかっこいい戦前のビルに引っ越しされているのを見て
この際、戦前の古いビルとか古い洋館にでも越してみるかな、、と
「洋館賃貸」で不動産検索してみましたら、
なんと!Googleで1位に出てきたんです。見覚えのある建物が

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これ、5年ほど前に私が企画デザイン設計した建物なんです、実は。
そうか、そうか、「洋館の仲間」に入れてもらったのかと感慨深かったです。
自分の設計物件といえば、まあ我が子みたいなもんで、親バカ的に言うと「かわいい」もんです。

この建物は、元々地主さんの方で処分に困っていた北側斜面の崖地の処理をどうしようか、で始まったものなんです。
こんな感じでした。
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これを事業化するにあたって、だいぶ知恵をひねりました。
この場所は大森山王~西馬込という、
土地探しの人にとっては都内屈指の高級住宅街ではありながら、
賃貸物件を探す人には、なじみの薄いエリアです。

なので、何か物件に魅力を持たせなければいけない。
ペット同居化とかソフトデザインはオーナーはじめ、すぐに浮かんだのですが、
物件のハードデザインをどうするかが問題でした。

いわゆるデザイナーズマンションのコンクリート打ちっ放しや、
白い箱形デザインのガラス張りエントランスが流行っていたときですが、
そういうタイプの建物はメンテナンスが大変なんですね。

元がクールデザインだけに、外壁の汚れや、窓枠の垂れ、
常にガラスの継ぎ目や白い外壁を綺麗に保っていないと、
魅力が半減です。

まるで、白いシャツを襟や袖が皮脂で汚れたまま着つづけている
ような有様になっています。
都内の建築家デザイン住宅にもそんなのが多いでしょう?

そこで、初めから汚れているのはどうなの?汚れではなくエイジングと考える。
エイジングにより風格につながるデザインはどんな方法があるかな?
ということで、以前にもご紹介したことのあるヴォーリズのような建物。
築後100年くらい建ったであろう建物を新築してみよう!ということを考えたんです。
しかもお金をあまりかけないで。
おかげで、建った瞬間から付近の子供たちに、「ハリー・ポッターの家」とか呼ばれてまして、
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向かいが中学校のグランドなのですが、周囲が大学キャンパスみたいな、
この建物が大学の寮みたいな好印象になっています。

何をやったかというと、
次の3つです。

1.煉瓦の目地を茶色にしてラフにつぶす。
2.コンクリート部分を板型枠にする。
3.錆びた鉄板をポイントで使う。

1.の目地をラフにする。ですが、これがなかなか現場では難しかったんですね。
なぜかというと、タイル職人さんはビシっと綺麗に張ることをキチンと仕込まれた人たちですから
最初、目地をグッチりっと塗るのにすごく抵抗があったみたいです。
数㎡分みんなで実験練習をおこなってからやっと納得してくれました。

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2.のコンクリート型枠を板目にする。ですが、これは通常の杉板型枠では、
すごいコストアップになってしまうので、一番安いフローリングを使っています。
フローリング表面のウレタン塗装がうまく型枠を剥離しやすくこれはなかなかよかったです。
ただ、安いフローリングで板目の凸凹がしっかり出ているものを見つけるのが大変でした。
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3.の錆びた鉄板。ですが、これは普通の鉄板ではなく、コールテン鋼という
現代彫刻で使われる「表面は錆びるけど、それ以上錆びない」特殊金属です。
これも実はコストパフォーマンスの高い特選素材なんです。
金属が自然に空気に触れて酸化被膜をつくり仕上げ終了です。
1950年代にアメリカの巨匠エーロ・サーリネンが、現代建築に大胆に使ったことで知られています。
これを、リスペクトしてみました。

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ほかにも、ロートアイアンで郵便受けを作るとか、
窓はカナダ製の木製サッシュにするとか、
ケイソウ土入りの壁紙とか、いろいろと素材も吟味していますが、
メープル材を輸入仕様したこともあって、その素材の使いまわしに従来の輸入住宅の域を越えたということで、こちらがビックリするくらい高評価をいただきました。
カナダ大使館がバスを二台仕立てて見学会を開いてくれまして、
大使館で講演会やらを含め建築の賞をいただいております。
建築というジャンルにおいて初めて「エイジング」という処理を前面に押し立てた物件
みたいで、話題になったみたいです。

築5年で、不動産賃貸ジャンルでビンテージマンション、洋館建築の仲間入り
をできていることは、なかなか成功だったのではないかなと思います。
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大体、常に満室状態が続いていると思いますが周辺家賃と比較しても、
事業価値はうまく維持しているのではないかなと自負しております。