ということで産業界、歴史の偉人寸前までいったフラーでしたが、信じられない経営判断をしてしまうのです。
このフラーの住宅会社には株主が3人いました。
ひとりは広報を担当するハーマン・ウルフ、もう一人は事務担当重役シンシア、そしてフラーです。
その後ウルフの知り合いワッサーマンが経営参加し資金調達をしてきます。

なぜそういう選択をしたのか、さっぱりわからないんですが
この「ウィチタハウス」の事業推進のために集めて来た調達資金のアイデアをすべて拒否してしまいます。

毎週1000台の「ウィチタハウス」の生産に必要なビーチクラフト社の見積もり1000万ドルを市場調達しようという試みであり、最初の株主であるフラーの額面10ドル5500の持ち株は10倍の50万ドルにまで増大するというおまけ付きです。

フラーは前回のダイマクションカーの見切り発車で起きたことからの反省なのかなんなのか、すでに受注もあり数万の労働者も確保され生産施設もあり製造資金もある状態で、100ゼロ思考に陥ったようです。

100点じゃなきゃ0点でもしょうがない!といった状態です。
つまり、(フラーの考える)計画全体はまだ完璧ではないから生産しない!
というものです。

その内容はハウスの製造開始に先立ち、
(世界中どんなところまでも運べば建つのだから)それを世界中に配送するための専用車を開発する必要がある!
とか
(誰でもささっと組み立てることができるのだから)専用基礎工事用具を開発しなきゃならん!
とか
(世界中の家のない人にじゃんじゃん生産するのだから)組み立て工の訓練プログラムを先につくらなきゃならん!

とかいった卵が先か鶏が先か、中身が先かパッケージが先かの無理難題で製造開始を延期しつづけます。
そのうち軍からの発注が取り消されてしまいました。
大宣伝で大量発注状態の会社に入金がないということで、経営そのものがおかしくなっていきました。
とうとう、フラー以外の株主3人はフラーに株式を売り戻し会社を去っていきました。

後に残ったのは試作棟1棟ともう1棟分のパーツ。
復員して住宅会社で働く予定だった数万の軍人と安くて画期的な住宅を買い損ねた人々、そしてヘンリー・フォードになり損ねた50過ぎのおっさんがひとりです。

でも、もしかしたらこれでよかったのかもしれません。
ここで「ウィチタハウス」で大成功していたら、バックミンスター・フラーという現代でもその評価がとらえがたい、ひとつの実践的思想家、宇宙の大きな枠組みを具体的に提示した不思議な大巨人は現れなかったかもしれない。
むしろ、成功したプレファブハウスメーカーの大社長で終わっていたかもしれないからです。


ということで産業界実業界での大大々失敗により、いったんリアルワールドからの撤退を必要としたわけです。
ひとまず誰も損させていないので、大きな期待はずれで済んでいる、むしろフラーという人の考えるいきなりでっかい世界的ビジョンがこの「ウィチタ」の発表によって多くの人に印象付けらたという結果は生みました。


捨てる神あれば拾う神ありで、フラーを大学の教授に招きたいという人が現れました。
実際に20世紀現代美術を推進した神々のひとりヨーゼフ・アルバースでした。