絶滅危惧器具の中の本命、瓦です。

建築エコノミスト 森山のブログ
     幕末に撮影された江戸の風景、西洋人も驚嘆した美しい甍の波

なぜ本命なのかというと、いつもこの話題で引き合いに出している建築
デザイン系の住宅雑誌で調べてみても、ここ数年間の設計事務所案件の約300件ほどの中に瓦を使用した建物が存在しないからです。
また、瓦を屋根につかった建物を設計したことがないという若手建築家が全体の8割を超えているからなのです。

これ、異常事態だと思いませんか。

たとえば、刺身を切ったことがないという若手料理人とか
たとえば、着物を着たことがないというブライダルコーディネーターとか
たとえば、日本髪を結ったことがないという美容師とか
が8割を超えていると仮定すると、ちょと信じられないですよね。

でも、そんな状態なんです。瓦と建築家の関係は!

ちょっとびっくりしています。若手も10年経てば中堅とか業界の重鎮になっていく人もいるでしょう。その人たちの8割以上が瓦を使ったことがない!瓦でデザインできない!教えられない!お手本を示せない!という未来が待っているのです。

だから私は若手よりも、もっと若手、これから建築業や将来建築家、設計士になりたいなあと思っているであろう、今の子供たち向けにこういったことを書いたり、知らせたりといった活動をしようと考えているのです。

なぜなら、子供たちに「家の絵」を描かせると、屋根はどうなっていますか?ちゃんとあるでしょう。まだ、屋根のない家の絵を描いたり、マンション住まいだから家は内装しかない、といったひねくれた絵は描かないと思うんです。
それくらい家と屋根の関係はアプリオリに結びついているのですよ全世界で!

いわずと知れた屋根瓦ですが、この「かわら」という言葉はインドサンスクリット語の迦波羅(カッバーラ)からきているといわれ、このカッバーラは「皿とか鉢」の意である、という説と、その名のとおりカバラ=陰陽道、インド密教、ユダヤ数秘術との関連もいわれているという、いずれにしてもおろそかにできない命名がついております。

それくらい汎世界的な意味をもっているのです、瓦は!

それは太古より人がその生活のシェルターとして家というものを考えたときに明らかなのですが
一番やっかいなのが、雨水の浸入だからです。

雨水の心配があまりない乾燥地帯ならば、屋根の処理はけっこういいかげんですが、一方それらの乾燥地帯は飲料水の確保、農作物の栽培について非常に過酷であり、人の住みにくい世界です。また数年に一回という、いっとき訪れる雨のために日干し煉瓦ごと家が溶けてなくなったりしますし。

雨水の進入を防ぐために屋根の素材をいかにするべきか!を長期にわたり世界中の温帯地方の文明が取り組みつづけて、試行錯誤に錯誤を重ねて登場したのが、この瓦です。

水に強く、しかも高所作業をともなうため頻繁に交換を強いられないような時間に強い素材として、食器と同様に陶器で考案された現在に通じるような初期の瓦は古代バビロニアでもすでに発見されていますし、ギリシャでも大理石を加工したもの、東洋では春秋戦国時代という紀元前3000年くらい前の中国でも生まれています。
歴史学者によればこの西洋と東洋の瓦の関連はいまだ解明中とのことですが、世界文明の発祥地で同時多発的に生まれた画期的な発明素材が瓦なのです。

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      中国の茶馬古道、1986年地震被害後にも伝統様式で復興再建築し
      観光客が20倍になったそうです。

現在でも中国の古民家や日本のお寺でも見られるタイプの古い瓦には、男女の区別があります。いわゆる平瓦と呼ばれる樋のように雨水を受けて流す側を女瓦といい、とその重なり合いに上からかぶせる丸瓦を男瓦と呼んだりします。
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崇俊天皇の時代、西暦600ごろ飛鳥時代には聖徳太子によって法隆寺、四天王寺などが建立されたおりからわが国でも瓦を使用した寺社仏閣が建築されるようになりました。
その数千年間変わらなかった瓦に一大発明をしたのが江戸時代の滋賀県の瓦師なんですよ。その人の名は西村半兵衛といいます。三井寺の瓦師です。
この人が何を考案したかというと、桟瓦(さんがわら)というものです。
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今では普通のものになっていますが、上述の女瓦と男瓦の組み合わせを一体化したんです。~風に、片側の縁にもうひとつの縁が乗っかってかみ合うことで受けと被せを同時におこなうことができるようになり、瓦の枚数と重量を圧倒的に下げることに成功したのです。
この西村が発明した桟瓦の仕組みはヨーロッパにも影響を与えており、スウェーデンなどでもこのタイプの瓦が広まっていると聞いています。
この瓦は実は三点で支持、噛合されているので、これを正確に焼き絞めるのは大変なんです。粘土は焼成されるときに縮み歪みますから、その分を計算に入れておかなくてはならないからです。

その瓦屋根の棟や軒の先端に魔よけの意味で取り付けられている鬼瓦、これなどは陶器で作成できる表現の限界を超えた造形ですね。しかも風雨に耐えて維持できなければ魔除けとしての鬼の効果はありませんよね。

この鬼瓦をつくる人のことを鬼師(おにし)といいます。
私は、建設業界のなかで、そこに働く数百という職種の中で、この鬼師という名前が一番かっこいいんじゃないか、と思っています。
「お仕事はなんですか?」と訊いて「鬼師(おにし)です。」と答えられたりしたら、陰陽師みたいでなんか凄いですよね。

土を練り、土を固め、土から掘り出した鬼は、二日間の釜焚きによって生みだされる土と炎の芸術です。掘り込んだ鬼の姿や面相もさることながら、屋根全体の中でのバランス、遠くから見たときには気付かないけれど、近くで見てよくこんなものが焼き物で、と感嘆するようなものが、ちょっと古い町の軒先にふらっと存在しているのを見ると、日本の工芸はたいしたもんだなと思います。

長い時間をかけて受け継がれてきた技術や意匠表現を、職人気質で突き詰めながらも、
ことさら大げさに見せ付けるのではなく、その業物(わざもの)を日常の風景にほっぽり出し突き放す、それを屋根になにげなく祭る、その粋それこそが日本の甍です。

甍(いらか)とは瓦屋根のことですが、原義はとんがった部分のことを言うらしいのですが、今、みんな鬼瓦を据付ないので、このとんがった部分を担う鬼師さん
が減っているのです。

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これは、日本中からカバラの魔除が減っているということになるんですかね。