仏教の瞑想法と修行体系 -36ページ目

「八座からなる心の訓練」(ゲルグ派)

「心の訓練(ロジョン)」は、チベットでまとめられ、実践されている瞑想体系です。
自我への執着を手放し、利他的な菩提心を生み出すための準備として行われます。

ちなみに、チベットの仏教の修行階梯に位置づけると、戒を受けて本格的な修行を行う前の段階、発菩提心の前の段階になるでしょう。

ここでは、14・15Cにまとめられた「心の訓練百根」の中に収録されている「八座からなる心の訓練」を紹介します。
ここには、密教の観想法の影響が多く見られます。

これは8つの瞑想で構成されていますが、大きく2つの種類に分けられると思います。

1つ目は、他人の苦しみを自分が引き取り、自分の良きものを他人に分け与えるタイプの瞑想です。
このタイプの瞑想法には「トンレン」という有名な瞑想法があります。
「八座からなる心の訓練」では1、2、3、8座がこれに当たるでしょう。

2つ目は、自分の体を他人や仏に分け与えて供養するというタイプの瞑想です。
このタイプの瞑想法には「チュー」という有名な瞑想法があります。
「八座からなる心の訓練」では4、5、6、7座がこれに当たるでしょう。

以下、箇条書きで簡単に紹介します。


<第一座:食べ物に関する心の訓練>

第一座は食事の時に行う瞑想法です。
日常の中で瞑想を行うという修行の一環であると言えます。

・今は自分の身体に寄生する虫に食べ物を与えるが、将来は法を与えるべきだと考える
・食事を飲み込む時、すべての人々の苦しみとその原因である罪障をすっかり受け取ると観想する
・息を吐き出す時には自分の幸せと善をすべての人々に与えると観想する
・食事がそのまま本尊に供養することになると考える
・諸仏諸菩薩の善根を受け取ってすべての人々に与えると観想する

続いて以下の観想を行います。
これはすべての座で共通の観想です。

・菩提心を起こし、智慧を福徳を円満し仏陀となり、空性の世界から釈迦が不動明王として現われる
・自分の頭頂にいる不動明王に智慧薩タ(タは土へんに垂)が溶け込んだと観想し、帰依・礼拝・供養・祈願する
・頭頂から空性が入り心臓に達し、一体化する
・空性の状態から戻り、頭頂にいる不動明王の智慧薩タに帰依・礼拝・供養・祈願する
・最後に、不動明王の智慧薩タをタンカ(仏画)に溶け込ませる、もしくは自性の世界に送る


<第二座:呼吸に関する心の訓練>

・息を吸う時にはすべての人々の苦しみを受け取り、吐く時には自分の幸せと善をすべての人々に与えると観想する
・諸仏諸菩薩の善根を受け取って、すべての人々に与えると観想する
・その後、共通の観想を行う


<第三座:化身を生み出す心の訓練>

・身体から無数の化身を生み出し、地獄の住人の苦しみを受け取り、自分の幸せと善を与えると観想する
・諸仏諸菩薩の善根を受け取って地獄の住人に与えると、菩薩心を起こし天界や人間に生まれ変わると観想する
・同様に餓鬼・畜生・阿修羅に…
・同様に人間に…(…仏陀になると観想)
・自分の身体を断片に裁断し、器世間に満たし、マントラをとなえてそれが甘露に変わると観想する
・諸仏諸菩薩の心部から甘露が流れ、器世間を満たす、その甘露を師、本尊、仏菩薩に差し上げ、次にすべての人々に差し上げ、彼らすべてが法身を得たと観想する
・自分の身体はすべての人々に与えたためなくなり、心は空性にとどまる
・その後、共通の観想を行う


<第四座:肉や血を与える心の訓練>

・肉や血を好む餓鬼がすべて集め、自分の肉や血を与え、食べさせると観想する
・自分の身体はなくなり、心は空性にとどまる
・その後、共通の観想を行う


<第五座:供物に関する心の訓練>

・自分の肉体を断片化し、器世間に満たし、マントラでそれらを甘露に変えたと観想する
・護法神達が周囲を取り巻き、彼らに供養すると観想する
・諸仏が供物を召し上がり、次に六道輪廻のすべての人々が受け取り、仏陀になると観想する
・自分の身体はなくなり、心は空性にとどまる
・その後、共通の観想を行う


<第六座:四大に関する心の訓練>

・自分の身体が、骨や肉は地に、血や体液は水に、息は風に、体温は火に溶け込み、2つの目は太陽と月になりすべての人々を益すると観想する
・すべての人々は自分の肉を食べ、血を飲み、皮を着物としてはおっていると観想する
・すべての人々の苦しみとその原因である罪障をすっかり受け取り、自分の幸せと善をすべての人々に与えると観想する
・諸仏諸菩薩の善根を受け取ってすべての人々に与えると観想する
・その後、共通の観想を行う


<第七座:身体を如意宝珠に変容させる心の訓練>

・自分の身体を如意宝珠に変えて供養・祈願することで、雨が降って大地を潤し、風が吹いて大地を掃き清め、甘露の雨が降ってすべての人々の煩悩や業が清められ、菩提心を起こし仏陀になったと観想する
・また、宝の雨が降り注いで宝が飾られ、天の羽衣が雨と降りみなが着物をまとい、無漏なる甘露の雨が降って大地が満たされ、諸仏諸菩薩の心部から甘露が流れ出し大地が満たされたと観想する
・甘露を師、本尊、仏菩薩に差し上げ、次にすべての人々に差し上げ、彼らすべてが法身を得たと観想する
・自分の身体はすべての人々に与えたためなくなり、心は空性にとどまる
・その後、共通の観想を行う


<第八座:死の心の訓練>

第八座は死が迫った時に行う瞑想です。

・観想を利用して七支分、六波羅蜜、発菩提心などを行う
・すべての人々を両親とみなし、苦しみを受け取り、自分の幸せと善根を与えると観想する
・諸仏諸菩薩の善根を受け取ってすべての人々に与えることで仏陀になったと観想する
・その後、共通の観想を行う

通常は共通の観想の最後に、空性の状態から戻って不動明王の智慧薩タをタンカに溶け込ませますが、寿命が来た場合は(あるいは意図して死のうと思った場合は)、空性にとどまったまま亡くなります。