秘密集会 聖者流 究竟次第 | 仏教の瞑想法と修行体系

秘密集会 聖者流 究竟次第

「秘密集会(グヒヤサマージャ)タントラ」は、チベット仏教ゲルグ派が重視する経典で、一般には父タントラに属します
ただ、ゲルグ派は根本タントラとします。
聖者流はゲルグ派が継承する派です。

その「究竟次第」の瞑想法を紹介します。

「究竟次第」は気(プラーナ、ルン)をコントロールする瞑想法です。
これによって、「空」を認識すると共に、報身(浄化された魂と気の身体)を得ます。

父タントラのこの聖者流の「究竟次第」は、人が死ぬ時の気の動きと同じように、全身の気を「心滴」に収束して、「空」を「光明」の体験を重ねて認識します。
そして、新しく浄化された魂と気の身体を生み出します。

ただ、このような「究竟次第」は、秘密集会聖者流に独特なもので、ジュニャナパーダ流は母タントラの「究竟次第」に近いものです。

この瞑想法は「5次第」と命名されていますが、実際には、6-7段階で構成される一連の体系化された瞑想・修行法です。
概略は下記の通りです。

0 定寂身次第:中央管に気を入れて、臍のチャクラなどを発火させた、四歓喜を体験、身金剛を観想
1 定寂語次第(金剛念誦次第):念誦によって胸のチャクラに気を入れる
2 定寂心次第(心清浄次第):不滅の心滴に気を流入して三空(喩えの光明)を体験
3 自加持次第(幻身):気を流出して新しく幻身(魂の体)を作る
4 楽現覚次第(光明):再度、気を「不滅の心滴」に流入して「勝義の光明」=「空」の認識を得る
5 双入次第:再度、気を不滅の心滴から気を流出して「空」の意識を保ったままに「清浄な幻身」(報身)を得る


0 定寂身次第

この「定寂身次第」は、「生起次第」から「究竟次第」への移行段階の瞑想法です。

曼荼羅の神々を自分の身体の上に観想し、身体を曼荼羅とします。
また、身体の一部に微細な曼荼羅を観想します。

また、多分、前提として次のような観想を利用しながら、身体の気の動きをコントロールできるように訓練します。

体の中の気が流れる主要な3つの脈管と5つのチャクラを観想します。

脈管は、脊髄に沿って体の中央を流れる中央管(ウマ)と、それに左右から巻きつくように流れている2つの左右管(キャンマ、ロマ)です。

そして、左右管が中央菅に巻きつく場所である5つのチャクラです。
頭頂のチャクラ(32枚弁の大楽輪)、喉のチャクラ(16枚弁の受用輪)、心臓のチャクラ(8枚弁の法輪)、臍のチャクラ(64枚弁の変化輪)、性器の付け根のチャクラ(32枚弁の守楽輪)です。

頭頂のチャクラの中には「白い心滴」、臍のチャクラには「赤い心滴」、胸のチャクラには「不滅の心滴」があります。
「心滴(ティクレ、ビンドゥ)」は気の身体の種のような存在です。

次に、男根の先端もしくは尿道(下門)に心滴を観想します。
(生起次第の最後にここに微細曼荼羅を観想しています。)

さらに、下門から中央管に気を流入させ、秘所と臍を発火させ(チャンダリーを燃やし)ます。

そして、その熱で頭頂の菩提心を溶かし、それが下降して各チャクラを通るる時に四歓喜を、次に、上昇さて四歓喜を体験します。
それで楽空無分別の智を得ると念じます。

その後、後得智を持って、自身を持金剛として立ち上げて、執着を浄化すると観想します。


1 定寂語次第(金剛念誦次第)

胸のチャクラに真言の滴を観想しての呼吸法、鼻先に光の滴を観想しての呼吸法、男根の先に物質の滴を観想しての呼吸法を順に行います。

この第二の瞑想法の中で、胸のチャクラの中の不滅の心滴の場所に「ア字の読点」を観想します。
そして、「入る音=OM」、「住する音=AH」、「出る音=HUM」の3つの文字の「金剛念誦」を唱えながら、中央管に上下から気を入れます。
あるいは、中央管の上門から出し入れをします。

それによって、胸のチャクラの上下にまきついている左右の脈管をゆるめて、気を胸のチャクラに入れます。

この過程で、身体を構成する「四大」が解体され、4つのヴィジョンが現われます。

1) 地のエレメントが解体し、「陽炎」のようなヴィジョンが現われます。
2) 水のエレメントが解体し、「煙」のようなヴィジョンが現われます。
3) 火のエレメントが解体し、「蛍の光」のようなヴィジョンが現われます。
4) 風のエレメントが解体し、「灯明」のようなヴィジョンが現われます。

以上の4つのヴィジョンは「四相」と呼ばれます。
ここで、四大のエレメントは「気」になります。

このプロセスは「溶融過程」と呼ばれ、人が死に際して体験するとされます。

この瞑想法は、「金剛念誦」の「風のヨガ」です。


2 定寂心次第(心清浄次第)

胸のチャクラの中にある「不滅の心滴」(気の身体の種)に紅白の心滴を集めて、「三空」と「喩えの光明」を体験します。
具体的には下記の通りです。

1) 頭頂のチャクラに巻きつく左右管をゆるめて、上半身のすべての気を中央管に入れます。
すると、頭頂のチャクラの中にある「白い心滴」が心臓のチャクラの上まで下降します。
その時、秋空に月光が充満するような白いヴィジョンが現われます。

気が中央管の中に入ることで、気が微細な気になり、微細な意識が目覚めるからです。
これは「顕明」と呼ばれ、「空」と表現されます。

2) 脊髄下部に巻きつく左右管をゆるめて、下半身のすべての気が中央管に入れます。
すると、臍のチャクラの中にある「赤い心滴」が心臓のチャクラの下まで上昇します。
この時、秋空に太陽が昇ったような赤いヴィジョンが現われます。
これは「増輝」と呼ばれ、「極空」と表現されます。

3) 降りてきた「白い心滴」と昇ってきた「赤い心滴」が、心臓のチャクラの結び目をほどき、「不滅の心滴」に触れます。
この時、秋空が暮れたような黒いヴィジョンが現われます。
微細な意識が消滅したからです。
これは「近得」と呼ばれ、「大空」と表現されます。

以上の「三空」の体験の最後の段階で体験される光明を、「喩えの光明」と呼びます。

瞑想法は、1や4の方法と同種のものです。


3 自加持次第(幻身)

準備として、ポアやトンジュクと呼ばれる霊体離脱の瞑想によって、粗大な身体(肉体)と微細な身体(魂の体)を分けておきます。

「不滅の心滴」の中に入れた気を、逆流して出します。
この時、先ほどの「三空」を逆順で体験します。

すると、逆流した気から「幻身」と呼ばれる霊的な身体が生まれます。
「幻身」は、「三空」の微細な気でできた魂の体です。

この幻身は 金剛薩埵など、仏の姿で生み出します。

この次第で、五道で言えば「加行道」の終了とします。


4 楽現覚次第(光明)

再度、すべての気を「不滅の心滴」に流入させます。

そして、すべての気と、赤白2つの心滴を、完全に「不滅の心滴」に融解します。

すると、根源的な(極微細な)気と意識が目覚めます。
完全に清浄な光明のヴィジョンの「勝義の光明」が現れます。

この時、まったく言葉や思考のない状態になるのですが、その状態で、完全な「空」である「一切空」を悟ります。
これによって「法身」を獲得します。

この時に行う瞑想法は、上下の心身を胸の種子へ、そして空へ溶け込ませる「塊取(聚執)」、そして、曼荼羅を主尊へ、そして胸へ収斂させる観想を伴なう「随滅」です。

この次第で、五道で言えば「見道」の終了とします。


5 双入次第

再度、気を「不滅の心滴」から流出させます。
この時、再度、「四空」と共に「幻身」を生み出します。
この「幻身」は、「空」の認識を経て煩悩のない清浄なものになっているので、「清浄な幻身」と呼ばれます。
これは「報身」の獲得に当たります。

この段階は、「空」の知恵と、清浄な身体(報身)を得たけれど、まだ仏から学ぶ必要があるので「有学双入」と呼ばれます。
この段階で、五道で言えば「修道」の終了とします。

「清浄な幻身」は、「空」の意識を保ちながら、一定の時間の維持が可能です。

5-2 さらに、功徳と智恵を集積して、仏になる段階は「無学双入」と呼ばれます。
この段階で、五道で言えば「無学道」の終了とします。

「清浄な幻身」を「空」の意識を保ちながら、恒常的に維持が可能となります。


0.定寂身
火のヨガ・四歓喜
1.定寂語
金剛念誦の風のヨガ
2.定寂心
三空(喩えの光明)
3.自加持
不浄な幻身
4.楽現等覚
一切空(勝義の光明)
塊取・随滅
5-1.有学双運
清浄な幻身
5-2.無学双運
恒常的な清浄な幻身